「水生哺乳類のカイギュウ類には、ジュゴン科とマナティー科の2科あって、現存するジュゴン科は1種だけなんですけど、マナティーは3種類います。アメリカマナティー、アフリカマナティー、そしてこのアマゾンマナティーですね。カイギュウ類の際だった特徴は、地球上で唯一の草食性、草だけを食べる、魚を食べない水生哺乳類だという点です。私の研究対象のアマゾンマナティーはアマゾン川の固有種です。雨季には川の水位が十数メートル上がるので川が氾濫します。その際に水没した森に入っていっていろんな植物を食べます。もちろん草を食べた時に、それについてる小さな昆虫とか、そういったものは一緒に食べてるだろうとは言われています。ただ、栄養分的にいうと、そんな大きな比率は占めてないし、それを選んで食べてるわけではないと」

水没した森で

 雨季に水没した森に入って食べるという点に、まず惹きつけられた。多様性の宝庫と言われるアマゾンの森で、本当に多様な植物を食べているという。様々な果物も食べるし、マメ類も食べる。森がすっかり水没した状態では、林床からかなり高いところにある木の葉まで食べる。食べているもののレパートリーだけ見たら、樹上で暮らすサルと似てくる時期だってあるわけだ。今は乾季で、ぼくたちは林床を歩くことができるけれど、半年後には水没して、同じ場所をアマゾンマナティーが行き来する! そして、ぼくらにも手が届かないようなところにある葉や果物を食べているかもしれない。同じ空間に重ねあわせてみたら、アマゾンマナティーの方がずっと自由自在だ。そんな暮らしぶりを考えるだけで、他の多くの哺乳類とは全く違う世界が見えてくるような気がして、興奮させられた。

 森林性の水生哺乳類。いや、場合によっては、樹上性の水生哺乳類。

 とにかく、そんな言葉が、頭のなかに浮かんだ。

「マナティーに特徴的な感覚器官は、このヒゲですね」と菊池さんは、マナティーの鼻面を指差した。上顎から下顎にかけて、つまり、口のまわりに、びっしり髭が生えている。たぶん直径1ミリはありそうな、ごわごわした短毛だ。

ごわごわの髭は感覚器官。