「2016年3月に南アフリカのフィールドワークで、3億7000万年前ぐらいのデボン紀の地層から海生のヤツメウナギの幼生の化石が見つかりまして。成体は以前から同じ場所で知られていたところです。それで、幼生の化石をよく見たら、今生きているヤツメウナギの幼生とは全く違うんです。口がゾウの鼻みたいに長く伸びて、その先に歯がついているという。親だと吸盤になっているので親とも違う。で、目も大きい。現生のヤツメウナギの幼生って砂の中に住んでいるので、目はちっちゃいんですけど、この幼生の場合は、体長1センチ半くらいの段階でもすごく大きな目を持っていて、これは素直に解釈すれば、獲物を見つけるビジュアルなシステムです」

ヤツメウナギの幼生は、かつて、濾過食ではなくて、捕食者だった! しかし、そんなに姿が違うなら、別種なのではないかという疑問も湧いてくる。
「段階が追えるんです。体長1センチ半ぐらいの本当にちっちゃい個体から、成体が7センチぐらいなんですけど、そこに至るまで、7体ぐらいの標本が段階を踏める形であります。これが1つだけだったら、僕も多分別の種類だと思ったんでしょうけど、幾つか中間段階があるので。とすると、今のヤツメウナギの幼生の濾過食っていうのは、原始的なものではなくて、おそらく2次的に淡水系への適応の中で新しく獲得された形質なんじゃないかと」
ここにきてストーリーがかなりはっきりしてきた。
ヤツメウナギ、ヌタウナギなど、原始的だとされてきた脊椎動物の系統関係を整理した上で、「現生のヤツメウナギとナメクジウオは『他人の空似』かもしれない」こと、したがって、これまで言われてきたような「脊椎動物の原始的な姿を見るには、ナメクジウオに似ているヤツメウナギの幼生を見ろ」は通じないかもしれないと宮下さんは指摘したわけだ。
それでも、ヤツメウナギには顎がない。これが脊椎動物の原始的な姿であること自体は、かわりない。そこで、これまでのように幼生にこだわることなく、顎の獲得に向けての進化的なポイントを考えるとしたら何か、という問題になる。宮下さんが着目したのは「関節」だった。
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