恐竜の研究を志して高校時代に単身カナダに留学。夢を叶えて、現在、世界的に活躍する若き日本人研究者がいる。ナショジオが選んだ「2016年ドラマチックな科学ニュースベスト6」の2つにも関わったその宮下哲人さんに、多岐にわたる研究活動について聞いてみた!
(文=川端裕人、写真=内海裕之、撮影協力=国立科学博物館)
宮下さんが博士論文で研究したテーマは、いわば3本の矢になっている。
「ヤツメウナギやヌタウナギの系統関係の再検討」、「ヤツメウナギの幼生の研究」、そして、「顎の起源についての考察」。それぞれ、ざっくりと聞いていく。なにをしたのかレベルでの紹介に留めるが、野心的な研究の風合いを感じ取ってほしい。
「ヌタとヤツメが同じ系統なのかは、200年前からの論争です。ここ20~30年の議論ですと、形態的に見ると、単系統ではないんです。ところが、分子系統、つまりミトコンドリアとか、あるいはゲノムで系統分析をすると、1つの系統になっちゃうんですね」

形態で見る系統と、分子系統が食い違ってしまうギャップを、宮下さんは埋めようと考えた。胚を観察することで得られる情報をもとに、形態について洗い直し、結果、宮下さんは同じ系統であるという結論を得た。
「2本めの矢」は、化石記録の発見から分析までひとつながりになった古生物学者の面目躍如たる研究だ。

まず前提として──
「ヤツメウナギって、成体は血を吸う吸血鬼的な魚ですよね。でも、幼生のときは、血を吸わないんですよ。砂の中に住んで、砂を濾過して有機物を食べるフィルターフィーダーです。一見、ナメクジウオに似ています。ナメクジウオって脊椎動物じゃないんですけど、脊椎動物にちょっと近いボディプランを持っているといわれている無脊椎動物で、大きさこそヤツメウナギの幼生のほうがちょっと大きいんですけど、もう見た目からしてよく似てる。だから、ずっと脊椎動物の比較解剖学の中では、もし脊椎動物の一番原始的な姿を見たいと思ったら、ヤツメウナギの幼生を見ろって言われていたんですね。そこに進化の最も原始的な段階が保存されていると」
ところが宮下さんは、南アフリカのフィールドでとんでもないものを見つけてしまった。
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