研究棟にはちょっとした専門図書室があって、学術誌のバックナンバーが豊富に揃い、かつて恐竜ハンターがアルバータ州で活躍した19世紀、20世紀のフィールドノートのコピーが、いつでも閲覧できるようにファイルされていた。ジョージ・スタンバーグや、バーナム・ブラウンといった、恐竜大発掘時代の化石ハンターたちの名をここで見ることになろうとは! 宮下さんもこの「出会い」に興奮しつつ、最新の情報(定期購読している学術論文誌)と、最古の情報(伝説のハンターのフィールドノート)の間を行き来したに違いない。

専門図書室で。(写真提供:川端裕人)
専門図書室で。(写真提供:川端裕人)
なんと、かつての恐竜ハンターたちが残したフィールドノートのコピーも揃っている。これはバーナム・ブラウンのファイル。(写真提供:川端裕人)
なんと、かつての恐竜ハンターたちが残したフィールドノートのコピーも揃っている。これはバーナム・ブラウンのファイル。(写真提供:川端裕人)

 いまやカリー博士のみならず、スタンバーグやブラウンの「薫陶」を受けた宮下さんは、どんなフィールド体験をしたのだろうか。博物館の立地はアルバータ州南部で、近隣からも化石が発掘される。170キロほど離れた恐竜州立公園は、その名の通り、白亜紀の恐竜発掘の聖地の1つである。

 恐竜州立公園も宮下さんに案内してもらったのだが、日本から来た身としては、最初はもう「うわーっ」と頭が真っ白になるくらいだった。ぼくがこれまで訪ねたことがある古生物発掘のフィールドでも一番、簡単に化石が見つかる場所だと間違いなく言える。化石を見る目がよくないことを自認するぼくですら、1日のフィールドで10個や20個の恐竜化石を見つけ、しまいには小さな骨には反応しなくなってまたいで歩いた。

アルバータ州の恐竜州立公園。素人でも簡単に見つけられるほど、恐竜の化石がごろごろしている。(写真提供:川端裕人)
アルバータ州の恐竜州立公園。素人でも簡単に見つけられるほど、恐竜の化石がごろごろしている。(写真提供:川端裕人)

「冬の間はフィールドに行かないので、僕が最初にフィールドに出たのは、来て最初の夏でした。ドラムヘラーの北、レッドディア川をさかのぼる方向に車で45分くらいのところです。そこは1910年にバーナム・ブラウンが見つけた後、ずっと忘れ去られていたんです。フィルがブラウンのフィールドノートの分析をして97年に再発見して、アルバートサウルス、ティラノサウルス類が、26体から35体ぐらいの集団で出てきました。その後、15年ぐらい発掘が続いていて、僕もその一環で行ったんです。最初は、もう気合い入りすぎてましたね。そのときに僕が掘り出したのって、ただの肋骨とか指骨です。今だったら本当にサーッと済ますところを、どのくらいきれいにできるかフィルに見てもらうんだと思って、すごく丁寧にやっていました。ちょっと痛いかんじの学生だったかもしれない」

カナダに渡った当時の宮下さん。(写真提供:宮下哲人)
カナダに渡った当時の宮下さん。(写真提供:宮下哲人)