「そうやって比較を進めて、これはティラノサウルス類の、恐らく左後ろ足第4指の3番目の指骨だろうということになりました。そこで、僕、フィルの意見を聞くためにメールを出したんですよ。こういう標本がありますと図を添えて、同定を書いて、これで合ってますかみたいな感じで。それが一番最初のやりとりですよね」
驚くべきことに、日本の恐竜少年から質問されたフィリップ・カリー博士は、きちんと返事を書いてきた。世界中の「恐竜少年・少女」から手紙をもらい、その量たるや「キャビネットいっぱい」になっているほどなのだそうだが、労力をいとわず若者を大切にする人でもあった。宮下さんへの返信は、「図を見る限り間違いない。よくできたね。写真じゃなくて図なのがよいね」ととてもポジティヴな内容だったという。

そこで宮下さんは、再びメールを書く。実は、将来、あなたのところで研究をしたいと。
「それに対するフィルの返事は、まあ、ウェルカムであると。うちの博物館で研究をするなら、面倒をみるよって。でも、英語で、ロスト・イン・トランスレーションって言葉がありますよね。翻訳の過程で失われるインプリケーション、意味合い、言葉の含み。ドラムヘラーに来て研究していいよっていうのは、これから大学に行って、大学院生になった段階か、学位を取った段階で来るもんだと思うじゃないですか。でも、中学3年生の僕は、そういうことは考えないんですね。来てもいいって言われたら、それは来てもいいということだというふうに言葉どおりに解釈しますから、もうゴーサインだと思ったんです。で、そこからカナダに留学する計画を具体的に練り始めました。その頃ですよ、川端さんに相談しに行ったの」
ぼくは恐竜倶楽部の例会を通じて宮下さんと知り合って、『竜とわれらの時代』の草稿を見てもらうなど、その時点ですでにかなりお世話になっていた。豊富な専門知識に基づいた的確な指摘や、感受性豊かな感想に舌を巻き、大いに助かったのを覚えている。一方、ぼくは自分などの考えが役に立つのかどうかと迷いつつも、よかれと思いある助言をしたのだが、それはちょっとプライベートかつ込み入っているので省略。一応、役立ったと本人からは聞いている。
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