一番近い町まで、車で2時間かかるところだから、何か大きな病気をした時に心配だとか、いろいろ不安はある。それでも期間的に長くないし(なにしろ1カ月を超えると強制退園!)、なにはともあれ、現地の人が住んでいる環境だ。えいやっ、母子二人でのフィールドワークへと旅立った。

こちらもダナムバレイの母子。子どもが1歳半のときに撮影。(写真提供:久世濃子)
こちらもダナムバレイの母子。子どもが1歳半のときに撮影。(写真提供:久世濃子)
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 結果は、とても満足の行くものだっそうだ。

「さすがに、オランウータンの追跡にフル参加するのは無理なんですけど、楽しんでいるのが分かるんです。調査助手に霊長類の写真を見せてもらって『オランウータンはどれ?』と聞かれると、ちゃんと指差すんですよ。子どもを連れて行くことで、これからまた別な経験ができそうっていう予感があります」

 子どもと一緒にフィールドに入ることで、違った経験をする、というのは、文化人類学の研究者などがよく口にする。子どもと一緒だと、まず、自分自身が地元の親コミュニティに受け入れてもらいやすくなるし、子どもは勝手に現地の子たちと遊び始めるから、子どもの社会も見えてくる。

鍵はコミュニケーション

 では、野生のオランウータン研究者にとってはどうだろう。

 お子さんの目を通して、あるいは、その成長を通して、オランウータンとヒトをより深く知り得る手がかりは得られるのだろうか。

 ひとつの鍵は、「コミュニケーション」ではないか、と久世さんと話していてぼくは感じた。すごく雑な言い方になるが、オランウータンの母子のコミュニケーションと、ヒト(久世さんたち)の母子のコミュニケーションを、オランウータンに近いところで比べることに意味があるのではないかと。

 印象的なエピソードがある。

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