ポスドクとして新しいフィールドを拓くのに没頭した時期の後、自らも子を得た。すると、今度は、子どもを持ちつつ、オランウータンの母子を観察するという立場になるわけだ。子育てとフィールドの両立は一大テーマなのだけれど、久世さんは、お子さんをつれていくという決断をした。

「私、ポスドクの時、京都大学の人類進化論研究室というところにいたんです。その時の教授が、今、京大総長の山極寿一さんです。山極さんも家族を連れてゴリラの調査に行ったと聞いたりしていたので、子どもが生まれたら連れて行こう、夫に育児休業を取ってもらってでも行こうと思っていたんです」

 しかし、ここで思いがけない壁にぶつかることになる。

保育園の壁

「立ちはだかったのが保育園の壁で、1カ月以上休ませると強制退園。帰って来たらまた入れる保証がないんです。じゃあ、いっそ何年も向こうに行ってしまうかというと、自分の身分ではできないし、せいぜい数カ月。結局、1歳4カ月で断乳して、子どもは日本に置いて、1回1週間とか10日とか、長くて3週間までのフィールドワークにとどめることになりました」

 本当に、この「保育園の壁」は切実だ。長期間休むと自動的に退園という以前に、「保育園落ちた」というケースも多い。すると、フィールドワークどころか、自分の研究生活そのものが成立しなくなる。若い研究者は日本学術振興会の特別研究員(いわゆる学振)に採用されていることが多いが、この場合、働いていると認めてもらえないことすらあった。学術振興会と特別研究員は、直接の雇用関係にはないので、採用証明書は出しても勤務証明書は出してくれなかったからだ。やっと最近になって、保育園関係に関してのみ、勤務証明書を出すようになった、という経緯がある(これから学振制度を利用する人は、知っておいて損はない)。

 しかし、二人目のお子さんが生まれて、事情が変わってきた。

「二人とも日本に置いていったら、夫が大変すぎるとか、私も、一人目よりも経験があって、気持ちにも余裕があるし、じゃあ、連れて行こうと。まだ1歳ですけど、この8月にはじめて行ってきたんですよ」

次ページ 鍵はコミュニケーション