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 一つ目は──

「森の果実が増えると、栄養状態がよくなってメスの排卵が戻って妊娠するという先行研究があるんです。でも、私たちのデータでは、果実生産が増えるよりも前に排卵が戻って、実際に果実が実るときには皆、妊娠しているんです。実は、妊娠中よりも、出産後の授乳のほうがエネルギーを必要とするので、果実生産が高くなる前に排卵を戻して果実生産の高い時期に妊娠して、脂肪を蓄えるのは理にかなっていると思うんです」

 久世さんは、ダナムバレイの森の一斉結実の際に、こういったデータを得た。一斉結実すると、その後は、確実に森の果実が少なくなるので、その前にたくさん脂肪を蓄積するのはたしかに合理的だ。生息環境の厳しいダナムバレイでこそ、知り得ることかもしれない。また、オランウータンの繁殖生態を理解するための地道なステップでもある。

離乳と発情の回帰

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 さらにもう一つは、「離乳と発情の回帰」だ。子どもが離乳する時期と、母親がふたたび発情し、妊娠できるようになる時期は、どう関係しているのか。

「食物連鎖上、母乳を飲むということは、お母さんを食べているのと同じなので、赤ちゃんと母親の尿を比べると、母乳を飲んでいるか離乳しているか分かるのではないか、という安定同位体比を用いた分析方法を開発中です。京都大学の蔦谷匠博士(日本学術振興会特別研究員)が安定同位体比の研究を担当してくれて、私は母親の尿のホルモンを見て発情が戻っているか見ています」

 これは、オランウータンの繁殖サイクルを決める一つのトリガーについての研究。結局、例の「少子化傾向」がどのよう決定されるのかを知る鍵にもなる。

 ダナムバレイでの知見について、エピソード的に面白いものから、地味だけれど重要な基礎的研究まで、様々な方向性のものをかいつまんで紹介してきた。そんな中でも、ぼくが個人的にとても関心がある新興テーマを、最後に紹介しておこう。

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