東南アジアのボルネオ島とスマトラ島に暮らす“森の人”、オランウータン。群れを作らず、木の上で暮らすため、同じく大型の類人猿であるゴリラやチンパンジーなどと比べると多くの謎に包まれている。そんな野生のオランウータンを研究すべく、自ら調査フィールドを拓き、10年以上にわたり野生での調査を続ける久世濃子さんの研究室に行ってみた!(文=川端裕人、写真=内海裕之)

 2010年にオックスフォード大学出版局から出版された、『Orangutans: Geographic Variation in Behavioral Ecology and Conservation(オランウータン──行動生態学と保護における地理的な多様性)』は、現時点でのオランウータン研究の集大成ともいえる大著である。ほとんどのオランウータン研究者が、コントリビューター(貢献者)として巻頭に名を挙げられており、もちろん久世さんもその一人だ。ざっと数えてみたところ、人数は60人ほど。それが、2009年の時点における、全世界のオランウータン研究者人口だと言ってよい。

 少ない、と思う。ゴリラやチンパンジーと同じく、カリスマ的な大型類人猿でありながら、こと研究となると幾重にも壁がある。

分かり合えない壁

 まず、待ち時間の多い調査。「人生に必要な忍耐はすべてオランウータン(の調査)から学んだ」という研究者が続出するくらい、地味で忍耐力を要する。

 また、フィールドの研究者としては、データの量を取れないというのが痛い。10年続けて、やっと論文になるだけの証拠が積み上がるような世界だ。そこまでやっても、データの質は、ほかの霊長類と比べて、芳しくない。たとえば、社会性について研究するには、社会的な行動を記録するわけだが、その時点でもう話が違う。

「オランウータン研究者は50m以内に他個体がいれば『ソーシャル』、社会的なシチュエーションだと定義しているんですけど、ほかの類人猿やサルの研究者には『何でそれがソーシャルなの』って話みたいで。そこが絶対に分かり合えない壁なんです。他の霊長類なら、群れで暮らしていて、喧嘩をしているとか、毛づくろいをしているとか、そういうのを社会行動というわけです。でも、ただ一緒にいるだけでは社会交渉とは言わないでしょうと」

フィールドの記録を示しながら解説する久世さん。

ナショナルジオグラフィック2016年12月号でも特集「オランウータン 樹上の危うい未来」を掲載しています。Webでの紹介記事はこちら。フォトギャラリーはこちらです。