「博士課程では、野生のものを研究できないかと調査地を探しに行ったんですよ。当時、インドネシアが政情不安で、とても入っていけそうな感じではなかったので、マレーシア側で。でも、4カ所くらい回って、難しいなというのがよく分かって。オランウータンの研究では、滞在費の他に調査助手を雇う人件費もかなりかかりそうで、自分の奨学金でやりくりできる範囲を超えていました」

 そこで、久世さんはセピロクのリハビリセンターに隣接する森で暮らす半野生の個体群を対象にすることにした。そして、すぐに特殊な事情に気づいた。

オスが生まれない

「大人になってからもエサ場に来ているような個体が、赤ちゃんを産むのが観察されているんですけど、すぐ死んじゃう印象があって。それで、リハビリセンターがオープンした1960年代から残っているデータを調べたら、本当にすごい死んでいるんです。概算したら60%以上。とにかく子どもが育たない。野生のオランウータンだと、1歳までの赤ちゃんの死亡率が17%とか7%と言われていて、動物園だと20%くらいなんですけど、それが60%ってちょっとおかしいですよね。あと、もっと謎なんですけど、オスが全然生まれないんです」

マレーシア・サバ州のセピロク・オランウータン・リハビリテーションセンターで調査当時の久世さん。(写真提供:久世濃子)

 耳を疑った。

 60パーセントという死亡率はたしかに異常だ。それに、オスが生まれない? 1960年代から、ずっとデータが残っていて(14頭の雌の28回の出産記録)、にもかかわらず、オスが3頭しか生まれていない、というのなら、それは、めちゃくちゃ変だ。ミステリーだ。