まず、オランウータンがどこにいるのか森の中で見つけなければならない。10メートルから40メートルもの高さの木の上で単独行動している生き物だから、発見すること自体とても難しい。そこで、オランウータンの研究には、能力の高い調査助手(リサーチアシスタント)が必要だ。調査助手は、オランウータンの発見、追跡、そして記録まで、すべての面で研究者をバックアップする。そのおかげで、フィールドワークがまわる。

「オランウータンは、毎日、木の上に枝を集めて、ベッドを作って眠るんですけど、前の日に寝た場所が分かっていれば、まずそこを目指します。朝、5時とかに調査小屋を出て、ベッドの下に5時半までには着くようにします。早ければ日が昇る6時くらいにはオランウータンが起きるので、それまでに行ってずっと待っているんです。ただ、すぐにベッドから出てくるわけでもなくて、遅いと動き出すのがもう7時とか8時なんですね。とくに成熟して顔に大きなヒダができたフランジオスだと、起きるのが8時を過ぎたりするので、待っていて不安になってきます。本当にここにいるのかなって」

ダナムバレイのオランウータン。(写真提供:川端裕人)
ダナムバレイのオランウータン。(写真提供:川端裕人)
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 ここで、ひとつオランウータン研究で最重要なキーワードが出てきた。

 待ち、だ。

朝の木の下から

 野生のオランウータンの研究では、待っている時間が非常に長い。オランウータンは、食べて、移動して、食べて、というのを繰り返すわけだが、その間に随時、「休み」が入る。それも、しばしば、長時間。

「というわけで、私たちの仕事は、最初はまず朝5時から、オランウータンがいる木の下で待つことなんです。これが、もう延々と待っているわけです。待っている間に、木の下で順番に朝食をとって、で、やっとオランウータンか起きてくると、追跡します。オランウータンも、まず、近場で朝ごはんみたいなかんじで食べて、移動して、また食べてというのが続きます。お昼から午後早い時間に、短くて1時間、長いと2~3時間、休んで動かないお昼休みみたいなものがあるんですけど、その間も待っているしかない。でも、どこから長い休みが始まるかは分からないんですよ。きっと長い休みになるだろうと思って、私たちがお弁当なんか食べ出すと動き出すこともよくあって。結果的に昼ごはんを食いっぱぐれることもあります」

 ちなみに、記録は1分ごとにとっている。1分ごとに鳴るアラームを首からぶら下げて、画板の上にA4の用紙をおいて、移動なら"move"、休みなら"rest"というふうに。

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