ぼくたちの社会で、少子化が問題になって久しい。多くの動物は、栄養条件などがよくなれば、たくさん子どもを産む方向に進むけれど、ことヒトは、育ち上がる確率が高いなら少ない出産で済ませようとする。これは、ヒトというか、人間社会特有の事情だろうと思っていたら、実はオランウータンもそうかもしれないという。「少子化の起源」というのは、考えもしなかったテーマだ。

「あと、孤独な子育て」と続く。

 オランウータンは、単独性で、独り立ちした後は、基本的には孤独に生きていく。とすると、雄は自分が乳幼児の頃、母親と一緒にいるのが唯一の「一人じゃない」時期だし、雌にしてみるとそれに加えて、自分が子育てしている時期がそうだ。もっとも、子育て期は、母ひとりで子を見るという意味で孤立しており、まさに「孤独な子育て」だ。

はしごを登って

「人間でも、お母さん一人きりで育てるようなことってありますけど、それって、ものすごくつらい。でも、オランウータンにはそれが当たり前で、全然つらいようには見えないんです。親が違うというより子どもが違うんですよね。オランウータンの子どもって騒がないし、要求しないし」

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 少子化と、母子が密室状態になってしまうような「孤独な子育て」の問題は、ちょっと位相がずれつつも、大いに重なり合う社会問題だ。少子化の理由には数々あれど、その中には、「孤独な子育て」「辛い子育て」もかかわっているだろうから。それらを解きほぐすのに、オランウータンは何か光を投げかけてくれるのだろうか。

 やっぱり、こういったテーマにまでたどり着くためには、ひとつひとつはしごを登っていかなければならない。まずは久世さんにボルネオ島ダナムバレイのフィールドを案内してもらうところから始めよう。

つづく

久世濃子(くぜ のうこ)

1976年、東京都生まれ。国立科学博物館 人類研究部 日本学術振興会特別研究員。理学博士。日本オランウータン・リサーチセンター事務局長。1999年3月、東京農工大学農学部地域生態システム学科卒業。同年4月、東京工業大学命理工学研究科に入学してオランウータンの行動や生態を研究し、2005年9月に博士号を取得。京都大学野生動物研究センターの研究員などを経て、2013年4月から国立科学博物館人類研究部に所属。著書に『オランウータンってどんな『ヒト』?』(あさがく選書)、共著に『セックスの人類学』(春風社)、『女も男もフィールドへ(FENICS 100万人のフィールドワーカーシリーズ12)』『フィールドノート古今東西(FENICS 100万人のフィールドワーカーシリーズ13) 』(共に古今書院)などがある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)と、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、夏休みのロケット競技会に参加する模様を描いた成長物語『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(早川書房)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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