議論が込み入ったところに入ってくると、結局は栄養疫学を始めとする専門家でないと判断が付きかねる領域に至る。その際にはぜひプロに解説してもらいたいものだと思う。それも、巨大なサプリメント業界と利益相反のない立場から。
ぼくたちアマチュアができることといえば、まず「すぐに飛びつかない」ことを強調したい。また、もう少しだけ踏み込むとしたら、「メカニズムとして合理的に思えても、実際に効くとは限らないし、思いもしない副作用の可能性は常にある」ことを肝に銘じることも大事だろう。
不思議に思われるかもしれないが、体内での働きのメカニズムがかなり分かっていると思われる栄養素についても、サプリメントの総合的な効果はよく分からないことが多い。ましてや、もっと新規な栄養素で、その働きについてメカニズムを中心に語っているものは要注意だ。

例えば──
物質●●には、強い抗酸化作用があり、血液中の活性酸素を一掃してくれる。活性酸素はLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)を変性させて血管壁に付着、蓄積させることから循環器系の疾患につながる。よって、物質●●のサプリメントを飲むと健康に良い。
というような言説だ。
こういうものは、部分部分は正しくても、全体としてはつぎはぎだらけで疑わしいことも多い。また、かりに十分に妥当な内容でも、サプリとして摂取したときの効果の証拠があるものは少ない。「エビデンスがないから、メカニズム論に傾倒するのだと考えるといいかもしれません」と今村さんも言っていた。
だから、現況では、「すごいメカニズム」が解説されていたら、それと同時に、サプリ摂取に関する疫学研究、臨床研究について言及があるかどうかは常に意識したほうがよい。
その上で──
「もしも、貧血や疲労感を抱いてサプリの利用も考えたいのでしたら、ご自身の食生活などの生活習慣を見直すことも選択肢にいれつつ、臨床医や栄養士にお世話になるのが適当だと思いますよ」
というのが、今村さんからの助言である。
つづく
(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。
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