小野雅裕さんは仕事の4分の1をより先を見据えた研究開発に費やしている。

「NASAって、組織の中に4つディビジョンがあるんです。そのうちのひとつが『テクノロジー』で、さらにその下に9つファンディング、つまり研究費を出すプログラムがあります。それぞれが、どの程度の技術成熟度かっていうのに応じて、分かれてるんですね。あるものは、もうすぐ飛びそうなものに技術実証の機会を与える目的だったりとか、中ぐらいの技術成熟度のものをフライトにもっていくためのものとか。その中で、一番ハイリスク・ハイリターンな、今のところ何の役に立つかわかんないような、でも面白い研究に研究費を出すのが、NIAC、NASA Innovative Advanced Conceptsっていうプログラムです。予算は非常にちっちゃいです。今すぐ実現できるとは思えないけども、もしかしたら、10年後、100年後に宇宙開発を根底から変えるかもしんないアイデアにお金出すっていうものなんですね」

彗星ヒッチハイカー

 "NASA Innovative Advanced Concepts"、NIAC(NASA革新的先進的構想、みたいな意味)、というのは覚えておいてよい仕組みだ。このワードで検索してみると、本当にぶっとんだアイデアがたくさん出てくる。

 たとえば、小惑星をまるごと1個のロケットにしようとか、2枚の膜の間に燃料を封じ込めてそれ自体が宇宙船になる「平面宇宙船」とか、火星有人探査のための人工冬眠システムとか、3日で火星に行けるレーザー推進システムとか、もちろん、宇宙エレベーター構想もある。

「彗星ヒッチハイカー」の詳細は次回に!

 ここで得られる研究費は10万ドルで、宇宙探査の世界では少額だが、新規性の高いアイデアの実現可能性をきちんと検証し、将来のために種をまくには充分に役に立つだろう。そして、意欲ある若手に、PI(研究主宰者)として、プロジェクトを切り盛りする機会を与えることもできる。

 小野さんがこういったチャンスを逃すはずもなく、JPLに入った翌年、2014年にはじめて挑戦し、見事に二段階のセレクションを通過、毎年10名ほどしか選ばれないNIACフェローになった。

 そのテーマは、「彗星ヒッチハイカー」、である。

つづく

小野雅裕(おの まさひろ)

1982年、大阪生まれ。2005年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進研究所に研究者(research technologist)として勤務。著書に『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』がある。2016年11月現在、『小山宙哉公式サイト』で「一千億分の八」を連載中。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)と、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、夏休みのロケット競技会に参加する模様を描いた成長物語『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(早川書房)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。