NASAのJPLでマーズ2020ローバーの開発に携わる小野雅裕さん。

「なぜかっていうと、ローバーって遅いじゃないですか。例えば2004年に着陸したオポチュニティ。まだ動いてますけども、11年~12年で走った距離が40キロ、50キロですよ。マラソン選手が2時間で走る距離を、ローバーは10年かけて走ったわけです。1日にどんなに走っても100メートルちょい。でも、これからのミッションは、やるべきことがどんどん増えていくので、1日100メートルは足らない。それなのに、1日あたり手動で運転できる量は限られている。じゃあ、どうやったら距離を伸ばせるかっていうと、自動運転の能力をもっと高めるしかない。っていうわけでやってるのが、ぼくの今の仕事です」

 そこで、ぼくが想像したのは、小野さんが、NASAとJPLのロゴが看板に描かれた大きな格納庫のようなところで、これまた同様のロゴが入ったつなぎの作業服を着て、新型火星ローバーの試作品を組み上げ、自動運転の試験をしている光景だった。

「あ、そうじゃなくて──」と小野さんは苦笑した。

「実作業としては、パソコンでのプログラミングなんです。自動運転のアルゴリズムを考えて、プログラムに実装して、コンピュータ上のシミュレータで試験します。アルゴリズム自体は、実は教科書に載ってるレベルのものを基本にしてますが、火星特有の難しさといえば、ローバーがスリップしやすくて、もしスリップした時に安全性を確保するためにはどうすればいいか、ですね。いわば、オフロードを走る難しさってことです。地球には舗装された道路があって、車線の仕切り線があって、標識見たらどこに行けばいいかわかって、GPSまであってって簡単ですよね。火星は道路もないし、岩だらけでゴツゴツだし、ある岩を越えようと思ったらお腹擦っちゃうかもしれないし、高すぎる岩を登ったら車輪が落ちて壊れちゃうかもしれないし……」

技術的に保守的

 話を伺っていて、驚いたのは、現役火星ローバーのキュリオシティに搭載されているコンピュータのことだ。これはマーズ2020にも同じものが使われる見込みだそうで、つまり非常に技術的に保守的なものだ。

「MPU(マイクロプロセッシングユニット)は、20年前のPowerPCを放射線に耐えられるように強くしたバージョンで、クロックが200メガヘルツ、メモリが64メガバイトくらいなんです。僕がプログラムする環境も、シミュレータもサクサク動くんですけど、本当に使うのはそういう古いスペックのコンピュータなんです」