「健康によい食事」や「体に悪い食べ物」など、健康情報のなかでも人気の「食」の話。だがそれだけに、極端だったり矛盾したりする話も多く、何を信用していいのか分かりにくいのも確かだ。そこで、食と健康にまつわる根拠(エビデンス)を提供する栄養疫学の専門家として、世界的に活躍する今村文昭さんの研究室に行ってみた!
(文・写真=川端裕人)
今村さんは、どのようにして今の研究にたどり着いたのだろうか。そもそも、いつどこで疫学に出会ったのかというレベルで、ぼくには興味深い。日本ではメジャーな研究分野ではないから、大学受験の時点で「疫学をやりたい」と考えている学生はきわめて稀だろう。また、そういう学生を指導できる日本の大学は学部レベルではほとんどない。
今村さんも大学入試の時点では「疫学」とは接点がなく、とにかく基礎科学がとても大事だという思いから、まずは上智大学理工学部で化学を学んだ。企業の研究者で海外での研究歴もある父親の影響もあり、学部一年生の頃からすでに大学院留学を意識していたという。

「学部時代に環境学や生命倫理学の講義にも関心を持って、レイチェル・カーソンの本も読みました。単に科学だけをやっていてもどうしようもない分野で、学際的なことをやりたいと思いました。じゃあ、どんな分野があるのかと図書館や新宿南口の紀伊国屋書店に通って調べたところ、北米には公衆衛生大学院(School of Public Health)というのがあって、これは日本に必要なものだと思ったんです。それで公衆衛生学について調べていくと、栄養学も面白そうだし大切だとも分かって、いろいろ出願した結果、結局、留学先はコロンビア大学医学部の栄養学のコースになりました」
さらっと言うが、日本の学生がいきなり北米の大学の大学院に飛び込むには、準備も覚悟も必要だ。行った先でも絶えざる努力が要求されるのは言うまでもないので、ここでは詳述せずに先に進む(今村さんの留学経験は公衆衛生大学院(MPH)に関心がある人に向けた『MPH留学へのパスポート 世界を目指すヘルスプロフェッション』(はる書房)という書籍に掲載された文章でも読める)。
コロンビア大学の栄養学修士課程では、栄養化学、臨床栄養、国際栄養といった様々な分野を学びながら、冬休みには公衆衛生学の研究室が運営していたバングラデシュの疫学調査(井戸水に含まれるヒ素の影響を見る疫学)に出た。これは、今村さんがはじめて体験する疫学研究の現場だった。飲水の中のヒ素の影響を探るので、ジャンルとしては環境疫学であり、栄養疫学ともいえる。いずれにしても、人の健康にかかわる因子をさぐり疾病を予防するための研究だ。
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