「たとえば、食品摂取の介入研究をしたくても、盲検化を行った比較は難しいんです。ある食品とその比較対象となる食品の比較となると、食事を提供して食べてもらっても、何を食べているのか見れば分かってしまいますよね。それぞれに応じて他に食べる量や食品も変わって比較そのものが歪んでしまうかもしれません。また食事を変えてもらうということは、生活習慣そのものが変わってしまうことにつながります。ましてや何年もの間、介入条件をそろえたまま追跡して疾患のリスクを検討するのはもっと大変です」

指摘されてみれば、まさにそのとおりだと納得する。今、多くの人が関心をもっている健康な食事パターンの研究などは、「介入すること=生活習慣の変更」に直結する。まず生活習慣を変えてもらうこと自体、大変だし、もしも変えてもらえたとしても、それに付随して別の生活習慣もくっついてくるだろう。食事というあまりに日常的で生活のコアともいうべきことを扱っているがゆえの困難だ。
信頼できる介入研究がこのように難しいため、栄養疫学の分野ではエビデンスレベルが相対的に低いたくさんの観察研究をメタアナリシスでまとめることがある。メタアナリシスの信頼性は、もとになる研究の信頼性があってこそなので、この場合、メタアナリシスだから信頼できるということにはならない。「同じデータを元にして複数のメタアナリシスが行われ、それぞれ結論が違う」ことすらあるというから悩ましい。だから、数少ない良質な介入研究にも目を向けつつ、「よいメタアナリシス」を求めなければならない。
エビデンスレベルという、一見、便利な尺度がありつつも、その実、ひたすら注釈をたくさんつけなければならないほど、この尺度は時と場合によって、使えたり使えなかったりする。
つまり、最低限、言えることといえば、鵜呑みにするな、ということだ。
その上で、個別の研究テーマの事情を理解して、参照できるベストな研究はどれかを判断しなければならないのだが、これはさすがに「専門家」に頼らざるをえないだろう。ここでぐるりと一周して、では誰が専門家として信頼しうるかを、アマチュアがどう判断するかという問題に戻ってしまう。これは本稿の中で、画期的な解決を与えられない超難問だ。
ここまで注意喚起をした上で、次回は今村さんが手がけたメタアナリシスに進む。具体的には、「加糖飲料(砂糖を加えたソフトドリンク)」「ダイエット飲料(人工甘味料を加えたソフトドリンク)」「フルーツジュース」の是非だ。
つづく
(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。
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