「一番ベーシックな実験では、モニタにカメラで取得した今の自分の顔が映っている状態で、その周りに次々に現れる丸いターゲットをクリックしていくタスクを出しました。21人の実験協力者に、モニタの自分の表情が常に少し笑顔になるとき、少し悲しい顔になるとき、そのままのとき、3回ずつこのタスクをやってもらいます。タスクの直後に感情の状態を測るためのアンケートに回答してもらうと、笑顔に見えていたときにはタスクが終わったあとにポジティブになっていて、悲しい顔に見えていたときにはネガティブになっているということがわかりました。それで、表情に応じて狙った感情状態を誘発することができていたと結論付けたんです」

 丸いターゲットをクリックするのは、ある意味「ダミー」のタスクで、その時、一緒に見えている自分の表情がどう影響するかを測定している。その際に使った、感情を測るアンケートというのは、日本語版PANAS(Positive and Negative Affect Schedule)といって、心理学の世界ではよく使われている気分尺度だそうだ。

 さて、「感覚を作る」クロスモーダルの研究と、「情動・感情を作る」身体化情動の研究は、いずれも刺激的だ。少々、違った方向性ではあるが、いずれも心の奥深くにかかわる部分があって、「人間ってこういうものなのか!」という発見がある。と同時に、様々な実用も想定できる。

 鳴海さんに、じっくり伺っていこう。

VR研究の最前線で、鳴海さんは何を目指し、どんな研究をしているのか。じっくり伺っていこう。
VR研究の最前線で、鳴海さんは何を目指し、どんな研究をしているのか。じっくり伺っていこう。

つづく

(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)

鳴海拓志(なるみ たくじ)
1983年、福岡県生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科 講師。博士(工学)。2006年、東京大学工学部卒業。2011年、東京大学大学院工学系研究科博士課程を修了。同年、東京大学大学院情報理工学系研究科の助教に就任し、2016年4月より現職。日本バーチャルリアリティ学会論文賞、経済産業省Innovative Technologies、グッドデザイン賞など、受賞多数。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
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