ゲームやイベントのアトラクションなどですっかりおなじみになったVR。だが、視覚と聴覚だけでなく、五感のすべてを人工的に作りだすVRを駆使して、人の認知機能を解き明かしつつ、個人の感情や行動、価値観までをも変える研究に挑む鳴海拓志先生の研究室に行ってみた。
(文=川端裕人、写真=内海裕之)
目の前には螺旋(らせん)階段があって、天空まで続いている。
一歩一歩、段を踏みしめながら登っていく。
無限に続くかのような螺旋の先にあるのは月。
きっとこの階段は、あそこまでつながっている。
ぼくがひたすら足を動かし続ければ、いつか届くだろう。
とはいえ永遠に登り続けるのは、さすがに無理だ。
足を止めて天を見上げると、巨大な月がぐるぐると回って見えた。
目眩を感じ、足がぐらつき、ただ立っているだけで精一杯になる。
あわてて階段を降りて地上に戻ろうとするが、今度は勝手が違う。うまく下れない。
それでも、何段か下るとコツが分かって、ぼくは再び地上に立つことができた。
ふっと一息ついて、もう一度、夜空を見る。そこには、軌道塔のような螺旋階段と頭にのしかかる巨大な月。
この無限に思える階段を登りきる勇者がいずれ現れ、異世界への扉を解き放つ。そして、壮大な物語が始まる。
そんな未来を予感する……。
2017年8月末に、東京大学大学院情報理工学研究科の廣瀬・谷川・鳴海研究室を訪ねた時のこと。
研究室の「3トップ」に名を連ねる鳴海拓志講師の案内で、いわゆるVR(ヴァーチャルリアリティ、人工現実感)の最先端の研究を特別に体験させてもらった。そのうちのひとつが「無限階段(Infinite Stairs)」だった。

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