「量子波光学顕微鏡」の開発チームを率いて物理学の最先端をゆく一方で、小規模な波力発電にも取り組み、自ら「下町の発明家」のように研究を楽しんでいるという新竹積さん。数々の国際的な賞を受賞する、天衣無縫で自由闊達な世界的物理学者の研究室に行ってみた!

(文=川端裕人、写真=飯野亮一(丸正印刷))

 沖縄本島の恩納村にある沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、細長い沖縄本島の中央部がちょうどきゅっとすぼまって一番狭くなったあたりの丘陵地にひっそりと佇んでいる。

周囲には緑が広がり、研究棟からは海が見える。(写真提供:OIST/Nansei)

 ひっそりというのは、本当に適切な表現で、周りの緑に溶け込んで、これみよがしな存在感を放っていない。高速道路で近くを通り過ぎる人たちは、その存在すら特に気にすることはないだろう。

 一方、OISTの研究棟からは、緑濃い丘陵の向こうにビーチが見える絶景だ。研究者に割り当てられた各部室も、誰もが利用できるカフェも(大学に関係ない人も利用できる。オススメ!)、とても居心地がよい。

自由な雰囲気が漂うOISTのカフェ。

実物を

 そのような場所で、新竹さんの冗談とマコトに満ちた物理・工学トークをうかがうのは至福の時間であった。巨大な加速器やX線レーザーSACLA(サクラ)、さらに、目下開発中の小型の「量子波光学顕微鏡」へと話題が進んできたところで、「では、実物を見てもらいましょうか」と地階にある、実験室へと案内してもらった。新竹さんが言うところの「コザクラ」がそこにある。

これが量子波光学顕微鏡!の「コザクラ(仮)」

 オリジナルのSACLA(サクラ)は、600メートルの加速装置があって、その先でドンと試料にX線レーザーをぶつける。DNAやたんぱく質の3D情報が得られるなら、それは顕微鏡と言っていいわけだけれど、ぼくたちがイメージする卓上の顕微鏡とは似ても似つかない、巨大な機構だ。

 しかし、コザクラは違った。ごく普通の研究室の床の上に設置されて、それなりに大きいものの、家庭用の冷蔵庫だとか洗濯機だとか、いわゆる白物家電くらいのサイズには収まっていた。本家の「サクラ」との違いは、まず高エネルギーのX線レーザーではなく、エネルギーの低い電子を直接当てていること。量子力学によれば、すべての粒子は波の性質を併せ持つ。電子を波に見立てる時、それは量子波だ。量子波光学顕微鏡というのはそういう意味(ただし、「量子波」という言葉で検索してさらに調べたい人は要注意。疑似科学的な医療で「量子波を使ってがんを治す」というような話がたくさんヒットする)。