一事が万事で、新竹さんとの会話は、のらりくらりと進む。新竹さんは、冗談とマコトを織り交ぜつつ、時に本質をつくような発言をズバリと言うものだから、たえず笑いながらも、一言一言を慎重に吟味しなければ、というふうな、気の抜けないやりとりでもあった。

 さて、いったいどんなふうにお話を伺っていこうか。

 頭の中で整理してみる。

 新竹さんがこれまでやってきたことというのは──

  • 加速器を使った素粒子物理学にかかわる研究。
  • X線自由電子レーザー、という可視光ではなく、X線のレーザーの研究。

 というのが、現在の沖縄科学技術大学院大学に来る前の業績の二本柱だ。
 そして、今ここでは、

  • DNAやウイルスの3次元構造などを解明できる超最先端の量子波光学顕微鏡の開発。
  • 波や海流を使った発電の研究と開発。

 ということになる。

 大きな疑問が、頭に浮かんできた。

 これだけ色々なことをやっていて、新竹さん自身は、自分のことをどんな研究者と認識しているのだろう。新竹さんのキャリアを貫いて通用する「研究分野」みたいなものはあるだろうか。

技術科学者

 例えば、あえて自分で肩書をつけるとしたら?

「あー、なんだろうね」と新竹さんは、楽しそうに言った。

「やってることって、下町の発明家だよね。うーん、しいていえば、科学技術者、いやいや、私は先に技術が来るから技術科学者、かな。科学も技術も私にはそんなに差はないんだけど、なにも意識しないでやっているのは技術の方だから」

 なるほど、納得。技術科学者。

 科学(サイエンス)と工学(エンジニアリング)は、日本では両方とも「理系」で一括りにされるし、実際、切っても切れないほど密接に関わり合っているけれど、かなり違いもある分野だ。よく言われるのは、科学が「なぜ(Why)」を探究するのに対し、工学は「いかに(How)」を考える。特に新竹さんがキャリア前半にかかわった素粒子実験では、実験のための装置を考案し実現するところから始めなければならないので、科学と工学が両輪になって進むのがはっきりしている。そして、新竹さんは、「技術が先」と言い切った。だから、「技術科学者」、である、と。

 さらに英語にしてみると、さらにわかりやすいかもしれない。エンジニアリング・サイエンティスト。技術する科学者。工学と理学の間に立って、工学の力(エンジニアリング)を活かして理学(サイエンス)する人。納得感があった。

 ならば、さらに疑問が湧いてくる。

「新竹さん、どうやったら、こんなふうな『技術科学者』になっちゃったんですか」

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