さて、ここに至って、新竹さんが「加速器研究の人」だった時も、その前の博士過程の学生だった時も、X線自由電子レーザーにとても近い研究をしてきたといえるのだと、すっきり理解できるようになった。

 新竹さんが作り上げたX線自由電子レーザー装置は、SACLA(サクラ)と呼ばれ、2012年から運用を開始している。電子のビームを加速する加速器の部分は600メートルもあって、その先でX線レーザーを取り出すことができる。現在、世界で実現されている2つのX線自由電子レーザーのうちの一つだ(もう一つはスタンフォード大学にある)。

SACLAのために開発したビームポジションモニターの心臓部。新竹モニターと方式は異なるが、およそ0.1ミクロンレベルの位置精度で電子ビームをモニターでき、約100m飛ぶ電子ビームの軌道を数ミクロン単位で制御するという非常に高度な調整を可能にした。ちなみに髪の毛の太さが100ミクロンほど。1990年代に盛んだったリニアコライダー技術開発では、6つの異なる加速器技術がしのぎをけずったが、そのうち生き残り、いまも稼働中の装置は新竹さんが開発を指揮したSACLAだけだ。

 さて、では、X線レーザーが使えると、どんな点でうれしいのだろうか?

 可視光線のレーザーなら、ごくごく日常的にはレーザーポインターとして使っていたり、DVDなどの光学メディアを読むために使っていたり、もう無尽蔵の用途があるわけだが、X線レーザーで実現することとは?

「ああ、いい話だ。それ聞いてよって、ね。まずX線って言ったら、まず病院に行ってレントゲンって撮るじゃないですか。あれは体の中とか、透視して見てるんですよね。それがCTになると、体のまわりをぐるりとまわりながら写真をとって、それをコンピューターで計算して立体構造が分かるようにするわけ。これも、X線で透視したものを使っている。透視っていうのは試料の中を通るよっていうこと。でも、X線レーザーの場合は通りながら散乱したものを見て、試料の構造を見るんです。原理上、すごく小さなものの構造を見ることができるのが売りですね」

 病院のレントゲンがものを透視して(通りすぎて)見ることができるのは、試料(例えば人間の体)に、骨のようにX線を吸収しやすい部分と、筋肉や脂肪のようにあまり吸収しない部分があるためだ。これを見るには、波の揃ったX線レーザーである必要はない。

散乱から再現

 では、X線レーザーのメリットはなにか。それは、小さなもの、それこそ100億分の1メートル(1オングストローム)くらいの小さなものに当てて散乱を見て、その立体構造を再現できることにつきる。波の揃っていない普通のX線をぶつけても、訳の分からない混沌とした散乱になっておしまいだが、波が揃ったX線レーザーなら散乱したものに多くの情報が詰まっており、そこから逆計算し、もとの状態、つまり、試料の立体像を再現できる。

「まあ、色々やり方はあるんだけど、基本的には一方向からぱーんと当てる。それで散乱したのを見てあげて、コンピュータに入れて計算して元の状態に戻しますよと。ものすごく小さな、例えばDNAとかたんぱく質とかの構造が見えるようになるんです。シングル・バイオ・モレキュラー・イメージングとか言ってます。生体の分子ひとつのレベルで像を得られるというわけで」