さて、ここに至って、新竹さんが「加速器研究の人」だった時も、その前の博士過程の学生だった時も、X線自由電子レーザーにとても近い研究をしてきたといえるのだと、すっきり理解できるようになった。
新竹さんが作り上げたX線自由電子レーザー装置は、SACLA(サクラ)と呼ばれ、2012年から運用を開始している。電子のビームを加速する加速器の部分は600メートルもあって、その先でX線レーザーを取り出すことができる。現在、世界で実現されている2つのX線自由電子レーザーのうちの一つだ(もう一つはスタンフォード大学にある)。

さて、では、X線レーザーが使えると、どんな点でうれしいのだろうか?
可視光線のレーザーなら、ごくごく日常的にはレーザーポインターとして使っていたり、DVDなどの光学メディアを読むために使っていたり、もう無尽蔵の用途があるわけだが、X線レーザーで実現することとは?
「ああ、いい話だ。それ聞いてよって、ね。まずX線って言ったら、まず病院に行ってレントゲンって撮るじゃないですか。あれは体の中とか、透視して見てるんですよね。それがCTになると、体のまわりをぐるりとまわりながら写真をとって、それをコンピューターで計算して立体構造が分かるようにするわけ。これも、X線で透視したものを使っている。透視っていうのは試料の中を通るよっていうこと。でも、X線レーザーの場合は通りながら散乱したものを見て、試料の構造を見るんです。原理上、すごく小さなものの構造を見ることができるのが売りですね」
病院のレントゲンがものを透視して(通りすぎて)見ることができるのは、試料(例えば人間の体)に、骨のようにX線を吸収しやすい部分と、筋肉や脂肪のようにあまり吸収しない部分があるためだ。これを見るには、波の揃ったX線レーザーである必要はない。
散乱から再現
では、X線レーザーのメリットはなにか。それは、小さなもの、それこそ100億分の1メートル(1オングストローム)くらいの小さなものに当てて散乱を見て、その立体構造を再現できることにつきる。波の揃っていない普通のX線をぶつけても、訳の分からない混沌とした散乱になっておしまいだが、波が揃ったX線レーザーなら散乱したものに多くの情報が詰まっており、そこから逆計算し、もとの状態、つまり、試料の立体像を再現できる。
「まあ、色々やり方はあるんだけど、基本的には一方向からぱーんと当てる。それで散乱したのを見てあげて、コンピュータに入れて計算して元の状態に戻しますよと。ものすごく小さな、例えばDNAとかたんぱく質とかの構造が見えるようになるんです。シングル・バイオ・モレキュラー・イメージングとか言ってます。生体の分子ひとつのレベルで像を得られるというわけで」
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