「量子波光学顕微鏡」の開発チームを率いて物理学の最先端をゆく一方で、小規模な波力発電にも取り組み、自ら「下町の発明家」のように研究を楽しんでいるという新竹積さん。数々の国際的な賞を受賞する、天衣無縫で自由闊達な世界的物理学者の研究室に行ってみた!

(文=川端裕人、写真=飯野亮一(丸正印刷))

「新竹モニター」や「X線レーザー」などの業績が高く評価され、国内外を問わず多数の受賞歴を誇る新竹積教授。現在は海洋エネルギー発電の開発にも取り組んでいる。
「新竹モニター」や「X線レーザー」などの業績が高く評価され、国内外を問わず多数の受賞歴を誇る新竹積教授。現在は海洋エネルギー発電の開発にも取り組んでいる。

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)の新竹積教授は、「量子波光学顕微鏡ユニット」を率いる研究主宰者だ。

 これまで、素粒子実験に使う加速器や、「X線自由電子レーザー」なるものの開発に功績があり、現在では、DNAやウイルスの三次元構造を見ることができる新型顕微鏡や、海の波や海流を使った発電の研究などを精力的に進めている。

 加速器、レーザー、顕微鏡、自然エネルギーによる発電。こう書いてしまうとばらばらだし、顕微鏡と発電は、現在進行形のプロジェクトとして、同じ研究室の中で進めていること自体、頭に「?」が浮かんでしまう。

 それでも、新竹さんの中では実に一貫したつながりがあるようだ。なにかぐっとくるテーマをみつけたら、がしっと掴み、実現していく研究者としての野性味を感じる。

 新竹さんは、自らを、技術をもって科学する「技術科学者」だという。これもまた刺激的な話だ。科学(サイエンス)と技術(エンジニアリング)は、似て非なる部分がありつつも、「科学技術」として世界に変革をもたらしてきた。古い世界観を変えたし、ぼくたちの生活を変え、社会を変えた。そんな「科学・技術」の両輪の順番をひっくり返して、みずから「技術・科学」者と言う新竹さんに注目すると、興味深いことが分かるかもしれない。新竹さんの外から見ると、ちょっとわかりにくい研究履歴の謎も解け、同時に、もっと普遍的なことが垣間見えるかもしれない。

「つもり」の世界

 だから、「技術科学者・新竹積」の誕生から説き起こし、それにつながるかたちで研究を追ってみよう。

 前回、父親に「人間テスター」の役を強いられつつ、農業機械のエンジンを解体修理したことで「スイッチが入った」という話を伺った。就学前、5歳か、6歳の頃だったという。

 その後、新竹さんはどんな道を歩むのか。

 案の定、野性味あふれる田舎の技術少年への道をひた走る。

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