「うちの学生だった斉藤隼介くん(現在USC在学)が、UCLAに交換留学にいった時に、少し関わってきた研究なので、僕らの直接の成果とはちょっと違うんですが、『アナと雪の女王』のシーンで使われている雪のモデリングです。雪のモデルを物理シミュレーションでつくって、パラメーター調整することで、サラサラ感とか湿雪みたいな感じもいろいろ表現できます。これを作ってしまうと、もうあとはシミュレーションですから、雪の動きは自動的に決まると。雪のシーンをアニメでつくるというと、本来はいちいち手作業なんですけど、これは計算で求まるので、もうキャラクターを動かしさえすれば、雪の挙動はついてきます」

計算機の中に物理世界を再現した上で、CG化して表現するのは、3Dゲームではごく当たり前のことで、それらを開発するのは、コンテンツのクリエイターではなく、物理学の素養を持ったサイエンティストとエンジニアだ。つまり、大づかみに言って「応用物理学の領分」と呼ぶにふさわしい。
そして、その「応用物理学」のアプローチの先に、SayaクラスのCGを自動生成するという目論見は以前にも書いた。
でも、そこに至るまでには、別の達成がさまざまあって、それぞれ、人の顔の「本人らしさ」の抽出やら、肌の質感の表現やらさまざまな方面から「山」を登っている印象だ。
そして、そんな中で、ひときわ大きな成果をもたらしたのが、「フューチャーキャストシステム」だという。
これは、2005年に愛知県で開催された愛・地球博の三井・東芝館の映像アトラクションで使われていた映像システムで、森島研が中心になって開発した技術がベースとなっている。博覧会が終了したあとも、長崎のハウステンボスに移設され、2017年まで公開されていたので体験した人も多いはずだ。
「映画を見に来たお客さんが、主人公に自分の姿を重ねるっていうのは、よくやることだと思うんですけど、実際に自分がそこに出て、自分が活躍するシーンを客観的に見れたらおもしろいよねと、ずっと思ってたんですよ。最初のアイデアは、20世紀の最後、1998年ぐらいの研究から始まっていて、2005年の愛・地球博で、一応、実現した後、今も、研究が進んでいます。これは、SayaクラスのCGの自動生成と並ぶ、僕のもうひとつの夢でもあるんです」
映画の中に、自分自身が登場するという「フューチャーキャストシステム」。これはどんなものなのだろう。
つづく
(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)
本連載からは、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)をはじめ、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
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