もっとも、本当に生成された絵が、本人の45歳の姿に近いかどうかは、これから20年待たないと検証できない。そこで、45歳ではなく、20代のデータベースで、同じことをしてみたところ、ちゃんと現在の本人そっくりな画像になった。とすれば、きっと25年後の予想もよいマッチングだと保証できそうだ。

実は、この研究は科学警察研究所(および大阪大学)との共同研究で、行方不明人の現在の姿を知りたいという動機で行われたものだ。実際に、その用途には大いに役立ちそうだと思われる。
2015年には、まさにそのテーマ、「古い写真からその人の現在の顔を画像合成する」ことを課題にした国際学会でのコンペがあり、森島さんのチームは、海外の多くの経年変化画像合成アプリと競って1位を獲得した。個人の特徴を抽出するという意味で、その時点でとても優れたものだったということだ。

では、これらの研究を通じて、その人の「本人らしさ」はどこに出てくるということになったのだろう。
「その人ごとに、特徴になるポイントっていうのがきっとあるんですが、それを人ごとにやっていたら、ルールとしては一般性がなくなってしまいます。だから僕たちがやったのは、特定の人だけじゃなくて一般的に適用できるルールでして、一番の大きな要素は、目と鼻と口、です。これを見てください。ポール・マッカートニーの画像ですが──」
森島さんは、言葉の通り、ポール・マッカートニーの写真を画面に出して、指差した。
「これ、ポール・マッカートニーの目と鼻と口は変えてなくて、肌の質感だけ、前アメリカ大統領のバラク・オバマのテクスチャーを入れてるんです。皮膚を他人に入れかえても、目と鼻と口だけ維持すれば、個性って結構維持できるんじゃないかなっていう前提がここにあって、さっきのパッチタイリングの時も、そういった特徴を維持するような評価尺度で画像を選んできているんです」
目と鼻と口の形や位置関係などが一致すれば、その人らしさが維持できるというのは、聞かされれば当たり前かもしれない。ぼくとしては、もっと細かな「個性のキモ」を抽出できる方法があるのかと思っていたのだが、意外にも目・鼻・口でだいたいのカタがつくというのである。
Powered by リゾーム?