アバターが代弁してくれるシステムはなかなか面白くて、いったんこういうことが実現してしまうと、じゃあアバターは本人じゃなくても、いいんじゃない? イカツイおじさんより、きれいな女性にしましょうとか、そっちの方面にも話が転がりうる。しかし、ここでは深入りせずに、森島さんのゴールの一つが「顔のCG」という方面にひとつ設定されたということを強調しておく。また1980年代の一世代前の人工知能ブームにも棹さすものだったと記憶しておこう。その上で、30年後の森島研が、現在進行形のテーマとしてかかわっていることに注目していこう。
「最近うちが掲げているゴールは、こと顔のCGでいうと、Sayaレベルのクオリティの顔のCGを自動生成することです」
「顔のモデリングをどんどんリアルにしていくと、リアルになればなるほど違和感が増して、いわゆる『不気味の谷』に落ちるよって話があったんですが、でも最近、このSayaというキャラクターが、それを超えたと話題になっています。作者は、TELYUKAさんっていう人たちで、彼らは、このクオリティのCGを、既存のレンダリングツールなり、モデリングツールなりを使いこなして、それこそ採算度外視で、とても時間をかけて作っています。あくまで手作業で、彼らなりの表現能力というか、感性で表現されたタッチですとかを、つきつめたクオリティです。じゃあ、どうやったらこのレベルのものを自動生成できるか、今一緒に研究をしようとしているんです」
Sayaは特定のモデルがいるわけではなく、あくまでデジタルで作られた3DCGなのだが、言われなければそう思えない、あるいは、言われても実写に見えてしまうほどのリアルさがある。また、特筆すべきなのは「SayaのSayaらしさ」という個性が、単に顔の造作というレベルではなく、仕草や表情のレベルでもしっかりあってドキッとさせられる。つまり、Sayaの顔は、顔が持つ「本人性」のようなものも見事に表現している。
では、森島さんのチャレンジがどこにあるかというと──
「Sayaの場合は、未知というか、実在しないキャラクターです。あくまでTELYUKAさんたちの頭の中にあるSayaっていうアイデンティティを持った、誰も知らない人物です。でも、僕たちがやろうとしているのは、実在の人物のCGなので、リアルにできたけどなにかちょっとおかしいとか、そういうことが起きるかもしれないんです。そのときに顔を忠実に再現するだけでなく、表情の本人らしさとはなんだろうとか、ということも課題になります」
なるほど、Sayaの本人らしさはクリエイターによって付与されたものだが、森島さんが目指すのは実在の人の顔CGで、表情も含めて本人らしくということなのだ。さらに自動生成、ということも目標にするから、ハードルは高そうだ。
そこに至るまで、どんなステップがあるのか、伺っていくことで実はかなり遠く、かつ、面白い地点まで到達することになりそうな予感がする。

つづく
(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)
本連載からは、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)をはじめ、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
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