もっとも、ここだけを見ると「水族館を維持するための科学」のようにも思える。では、そこからさらに先のビジョンはあるのだろうか。水族館や動物園が自然保護に貢献すべきだという考えがあるけれど、その点はどうか。

「例えば繁殖の周期とか、産仔数だとか、繁殖にかけるコストっていうのは、直接資源量推定にかかわってくるんですね。ですから、例えばジンベエザメのように、恐らく成熟に至るまで25年から30年かかる種で、1回にどのくらい生まれて、周期がどのくらいで、どのくらいのコストをかけているっていうことがわかれば、1匹のサメがどのくらいの繁殖の能力を有するかとかも分かってきます。それが将来的には、今、サメの資源量ってまったくといっていいほど分かっていないんですけど、繁殖学的な情報っていうのはそのためにも必要なものです」

酸素の謎

 言われてみれば、その通り。今、サメは、実際に捕獲されている漁業の対象でもあって、あるいはジンベエザメの場合、観光の対象になっている場所もあり、そんな中、「どれだけいて、今後どうなりそうか」ということを理解するためには、やはり繁殖生態の解明は必要な情報だ。

「あとは、人間の生活にとって、何か影響がありうるとすると、今後、例えばサメの子宮の中の構造とか物質がどんどん明らかになってくれば、医療などに応用できるものが見つかる可能性もありますね」

 今、深海鮫が乱獲されている理由の一つに、化粧品や健康食品に使われるスクワレンという物質がサメの肝油から抽出できることがあると、前に説明してもらった。サメという神秘の軟骨魚類から何か「役に立つ」ものが見つかるというのは、結構、リアリティがある話だと思う。

 しかし、それはそれとして、やっぱり、佐藤さんはサイエンティストである。「役に立つから」という理由で研究をする、というのとは少し違う。

「我々は、こんなメリットがあるというのを、日ごろから意識してるわけではないんです。やはり水族館を持つ組織として、せっかく飼育している動物がいるわけですから、そこから得られる情報は可能な限り研究してオープンにして、生物体の理解に貢献するというのが、基本的なスタンスです。短期的な成果が求められがちな大学の研究室などと比べて、研究期間にとらわれず、あんまり他の研究者がやらないような研究をやるのが、使命かなというふうには考えてるんですけどね」

 つい最近(2015年)に発表された論文の中で、ちょっと象徴的かなと思うものがあった。佐藤さんの研究室の部下で、共同研究者でもある冨田武照さんによるものだ。胎盤を持たないツノザメの胎仔が子宮内でどのように酸素を供給されているか、という問題。これまで、栄養の供給ばかり考えてきたけれど、たしかに酸素も必要だ。胎盤がないタイプのサメはどうしているのだろう。それは長年の謎の一つだそうだ。

 冨田さんに直接お話しを伺うことが出来た。

沖縄美ら島財団総合研究センターの冨田武照さん。
沖縄美ら島財団総合研究センターの冨田武照さん。

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