「でも、一番直接的な栄養の与え方というのは、やっぱり胎盤型なんです。サメの場合は卵黄嚢胎盤っていいまして、もともと胎仔が持っている大きな卵黄嚢がシワシワになって、やがて子宮にくっつくんです。そのときも、子宮とその卵黄嚢の間には、しっかりした卵殻の膜が、挟まっています。ですから、そういうところでいうと、母体が胎盤をつくる人間とはちょっと違う。でも、最終的には似たものができるんですよ」

 胎盤を通じて栄養供給するサメは、メジロザメ、オオメジロザメ、シュモクザメといった系統だ。

 シュモクザメの胎仔を見せてもらった。小さくても、あの金槌状の一度見たら忘れられない頭の形状は同じで、お腹からへその緒が出ている。そして先端にはわさわさとした房のようなものがあり、それがすなわち胎盤なのだった。

シュモクザメの胎仔。ヘソの緒の先端にあるまとまった部分が胎盤。サメの胎盤は胎仔の組織からできて母親とつながる。(写真提供:佐藤圭一)

「シュモクザメの場合は、20匹くらい同時に胎内にいて、胎盤で母体とつながっているんです。1匹1匹、こう、ギューッと漬物樽に入ってるようなかんじで詰まっています。可愛いです。いや、大きくなっても可愛いですけどね」

シュモクザメの子宮の中の状態を記録した大変貴重な写真。成体と比べると、1匹1匹の子どもの顔つきはやはりかわいらしい。(写真提供:佐藤圭一)

 思わずサメへの「愛」をその時、佐藤さんはたしかに発露していたと思う。サメが可愛い、というのは、あまり多くの人には通じないはずだ。でも、たしかにぼくも、その時、佐藤さんと同じく、可愛い、と思ったのだった。

エイのミルク

 さて、胎盤での栄養供給まで来たので、それでおしまいかと思いきや、決してその程度では済まない。「繁殖形態のデパート」の本領を垣間見るのはまだ先だ。

「実は、サメというより、エイなんですが、胎内でミルクを飲ませるものがいるんです。アカエイ類やトビエイ類がそうで、オニイトマキエイ、つまり、マンタもそうです」

 もうどんなことが起きようと驚かない。

 そう決意させるに足りるインパクトがある。サメ、というか、エイがミルクを飲む? それも胎内で? そんなことがありえるのだろうか。いや、ありえるのだ。別に珍奇な新説というわけではなく、すでに定説になっているのだという。

「サメ博士の部屋」にある繁殖について展示・解説する一角。ここにも貴重な標本が並べられている。沖縄美ら海水族館ならではの充実ぶりだ。

つづく

佐藤圭一(さとう けいいち)

1971年、栃木県生まれ。沖縄美ら島財団総合研究センター動物研究室室長。水産学博士。専門は軟骨魚類(サメ・エイ類)の比較解剖学および繁殖生態学。1994年、北海道大学水産学部水産増殖学科卒業。2000年、北海道大学院水産科学研究科博士課程修了。同年、(社)沖縄海洋生物飼育技術センターに勤務し、(財)海洋博覧会記念公園管理財団(沖縄美ら海水族館)を経て、2013年より現職。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)と、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、夏休みのロケット競技会に参加する模様を描いた成長物語の前編『青い海の宇宙港 春夏篇』(早川書房)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松栄一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。