「卵食型・共食い型というのがあります」と佐藤さんは言った。

 かなりエグい内容であることを予感する。というか、これは、わりと古くから知られているようで、ぼくも昔聞いたことがある。

「ホホジロザメなんかがまさにそのタイプで、卵食ですね。母体が作った卵の黄身、未受精卵なんですが、それをパクパク食べる。ホホジロザメの胎仔は、食べた栄養卵でお腹がいっぱいになって、本当にお腹が大きく膨らみます」

栄養卵を食べてお腹が膨れたホホジロザメの胎仔。(写真提供:佐藤圭一)
栄養卵を食べてお腹が膨れたホホジロザメの胎仔。(写真提供:佐藤圭一)

 見せていただいた写真は、まるで「卵黄嚢」がついているのかと思うくらい、腹が大きく膨らんでいた。この時に腹を裂けば、黄身がどろりと出てくるそうだ。

 しかし、考えてみれば、これはこれで合理的かもしれない。母体はどのみち卵を作る器官を持っている。有精卵が胎仔になった後で、引き続き未受精卵の詰まったカプセルを提供し、栄養にするというのは、シンプルなアイデアだ。

ホホジロザメの栄養卵のカプセル。(写真提供:佐藤圭一)
ホホジロザメの栄養卵のカプセル。(写真提供:佐藤圭一)

「卵食型は、ネズミザメ目、チヒロザメ、オオテンジクザメの系統で、それぞれ独自に派生したものだと言われています。ですので、供給方法はそれぞれ違うんです。さらに、シロワニでは、最初の受精卵から発生した胎仔が、他の受精卵や胚を胎内で捕食する共食い型と言われています」

 他の受精卵や胚というのは、つまり、自分の弟や妹、ということだ。胎内で、近親内の共食いはやめてもらいたい! と心が叫ぶが、これが自然である。良い悪いの問題ではない。

胎盤という戦略

 卵食と共食い。いずれもインパクトの大きな「保育」だけれど、もっと別のやり方を、「繁殖様式のデパート」であるサメは持っている。

「偶然なんでしょうけれども、見かけ上、非常に人間に近い繁殖様式をとるようになったものがサメの中にいるわけです。胎盤をつくるサメです。胎盤を通じて母体から栄養を受け取ります。おそらく、ここまで明確な胎盤をつくるのは、哺乳類(有胎盤類)と一部の爬虫類のほかには、サメだけじゃないかなと。胎仔が胎内で卵黄を吸収した後も、母親はさらに保育をする。親からさらにどんどん栄養が供給されて、体内に取り込んでいって、大型化して生まれてくるっていう戦略をとったものが出てきたんでしょうね」

 なんと、胎盤! ぼくはこの件、まったく知らなかったのでかなり驚いた。胎盤を持つ魚がいるなんて、世界の認識を一部書き換えなければならないくらい衝撃的だ。

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