このところ「サメに襲われた」というニュースをよく耳にする。2015年には日本でも目撃情報が相次いだ。だが、「怖い」というイメージのほかに、サメについて知る機会はとても少ない。そこで、頂点に君臨する海のハンターの素顔に迫るべく、世界屈指の研究所を率いる佐藤圭一先生の研究室に行ってみた!

(文=川端裕人、写真=飯野亮一(丸正印刷))

 ややセピアがかった古い写真には、水玉模様が印象的な魚が写っている。ちょっとずんぐりしているとはいえ、体型からしてサメだとは分かる。

一例だけ

 衝撃的なのは、その数。漁港の片隅なのだろうか、床一面にだーっと並べられて、その数、300匹。1995年、台湾で定置網にかかったジンベエザメのお腹の中から出てきたものだそうだ。大きさが微妙に違うものもいて、成長段階が違う子が、胎内にいたこともわかる。

「実はこれだけ、なんですよ」と沖縄美ら島財団総合研究センター動物研究室の佐藤圭一室長は言った。

台湾で発見されたジンベエザメの胎仔(たいし)の標本。沖縄美ら海水族館「サメ博士の部屋」で展示されている。現在、数体しか残っていないうちの貴重な1匹だ。

「ジンベエザメは、とても人気がある魚ですけど、繁殖についてはまったく謎なんです。お腹の中から胎仔(たいし)が出てきたというのも、この台湾の一例だけです。この前、国際ジンベエザメ会議というのがカタールでありまして、そこで出席している研究者たちに妊娠してるジンベエザメを見たことがあるかと聞いたんですが、誰も見たことがない。それどころか交尾をどうやってるか分からないんですね。妊娠期間がどのくらいか分からないですし、妊娠してる間、子どもはお腹の中で何をやってるのか、栄養はどうしてるのか、一切分からない」

 見事なほどの分からなさ加減だ。おまけに、成長段階の違う子が胎内に同時にいる謎もある。

「あそこまで胎仔の数が多いサメって、あんまりいないっていうか、ほかに知られていないんですよ。あれだけの数を排卵するっていうのは、相当、期間がかかると思うんですね。なので、恐らく、そのステージの差っていうのは、排卵・受精の時期にかなり幅があってですね、それによってあの差が出てくるのだという気がしています。これも、一例の観察での推測にしかすぎないわけですが」

沖縄美ら島財団総合研究センター動物研究室室長の佐藤圭一さん。「黒潮の海」大水槽に設けられた研究用の観察窓の前で。

ナショナル ジオグラフィック日本版でも「海のハンター」シリーズとして、2016年6月号で「イタチザメに会いたい」を、7月号で「ホホジロザメ 有名だけど、謎だらけ」を、8月号で「大海原の王者 ヨゴレはどこへ?」を特集しています。あわせてご覧ください。