「国際サメ被害目録は、フロリダ自然史博物館のジョージ・バージェスさんという研究者がずっと統計を取っているんですが、ひとつ、問題点があって。サメの研究者がいるところであれば、常に彼と情報を共有できるんですが、どうしても東南アジアですとか、事故があっても情報が伝わりにくい地域も多いんです。その一方で、今は、携帯で写真を撮って、すぐ送れるようになってますから、去年あたり、サメの目撃例が多かったというのは、もしかするとそれが一番の原因かもしれないですね」

深海の乱獲

 たしかに、国際サメ被害目録でも、同様の但し書きが添えられていた。研究者の目が多いところは情報が密で、北米やオーストラリアは、記録されている事故がとても多い。一方で、携帯端末やネットの発達によって、これまであまり情報が知られていなかった地域からもサメ情報が、直接、届くようになり、我々が普段の生活を陸の上で過ごしている間に触れるサメ情報は画期的に増えてきた。そんな背景だ。

「では、実際にサメが増えているかというと、アメリカでホホジロザメを保護するようになったので、ホホジロザメの数が少し増えているのではないかとかいう話は、確かにあります。でも、全体としては増える傾向にはないと思ってます。むしろ、減っているやつも多い。世の中的には注目されないんですが、比較的深海のサメが乱獲されていて、特にアイザメ属なんか、ひどい状態です。今、沖縄で、我々がサンプリングのために船を出しても、ほとんど採れないですから」

 なるほど、サメが増えているかどうかという問いに対しては、基本的には減っている、少なくとも乱獲で数を減らしている種類が多いということだ。

「サメ博士の部屋」の中にある「危険ザメの海」の前。うしろのサメはレモンザメ。オオメジロザメと同じメジロザメ科だ。
こちらはイタチザメ。若い頃はトラ柄模様があることから英語では「タイガー・シャーク」と呼ばれる。バックヤードで「危険ザメの海」を上から撮影。

 サメにかかわる事故対策は大切で、マリンレジャーが好きな人も、海で仕事をする人たちも、気をつけるべきことを知っておくべきだけれど、それはまた、そのような啓発を目的にした場、その筋の専門家に語ってもらうのがよい。ぼくが今、訪ねている「サメの研究所」は、どうやら、その場所ではないと、このあたりではっきりと気づいた。むしろ、「減っている」ことについて佐藤さんは、深い関心をよせていることがありありと分かる。

「アイザメ属のサメは、世界に何十種類もいるんですが、スクワレンという物質を肝油から抽出する目的で捕獲されます。化粧品とか健康食品に使うんです。昔から、ビタミンが豊富だとかで、やけどに塗ったりとか、カメラや飛行機の潤滑油に使うとか、色々用途がありました。それで、東京湾あたりでもたくさん捕獲されてたんですが、本当にいなくなってしまってます。今は、海外の、たしかニュージーランドのあたりで漁獲されているはずです」

 自分たちの身の回りにあるものの原材料に、野生生物が使われており、それもかなり収奪的なやり方で捕獲されているというのは、言われないと気づかない。まさに、深海鮫というのは、ぼくらの目が行き届かない盲点だ。