フェイクニュースだとか、オルタナティヴファクトだとか、嘘とマコトの境界があいまいになりがちなこの2017年。嘘についてあらためて考えるべく、嘘の心理学を専門とする村井潤一郎先生の研究室に行ってみた!
(文=川端裕人、写真=内海裕之)
日本で「嘘」を中心的な課題としている研究者は数少なく、村井さんはちょっと珍しい道を歩んでいるのかもしれない。
そもそも、村井さんはどうしてこの研究課題に足を踏み入れたのか。
お話を聞き始めた冒頭で、村井さんは「科学の限りを尽くして理解につとめることが大事。でも、同時に数値化できない大事なこともある」というような意味のことを強調した。
後者「数値化できない大切なこと」は、村井さんの研究やそのモチベーションにどんな影響を与えているのだろうか。
「ひとつのきっかけは、修士課程の時に心療内科の先生の授業を受けていたんですが、その先生が、『嘘と秘密は大切なんですよ』と言って、あ、これいいなって思ったことですかね。もともと私は嘘が気になるたちでした。自分がしゃべったことを誤解されて『え、そういうつもりで言ったんじゃないのに』となるようなシチュエーションが苦手だったり。録音した自分のしゃべりが聞くに堪えなくて、何だこいつ嘘っぽいなって思ったり。こういった感覚ってなんだろうというのはありました」
その心療内科の先生が、具体的にどんな文脈で「嘘と秘密は大切」と言ったのか、村井さんは覚えていないという。もともと「嘘」に関連する様々なことに敏感な部分があり、先生の一言で、問題意識として析出したのだろうか。
「このインタビューもそうなんですが、意図せず不正確な情報を呈示してしまうことが怖いんです。意図せずだから、定義に従えば嘘じゃないですけど、それでも嘘つきと思われたら嫌だなですとか。映画とかを見ていても、たとえば証拠のビデオテープが暖炉にバッと投げ込まれたり、すべてを知っているキーマンが殺されてもう誰も真実を知っている人がいなくなるみたいなシーンでドキドキします。私自身もふだん微妙な嘘をつく日常があるわけで、嘘の研究って自分の心に直結しているように思います」

ナショナルジオグラフィック2017年6月号でも特集「なぜ人は嘘をつく?」を掲載しています。Webでの紹介記事はこちら。
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