3)脳波

「いわゆる嘘発見器は、脈波、呼吸、皮膚電気活動、心拍といった、末梢の生理的な指標を見ていました。でもこれだと、カウンターメジャーと言いまして、検査される側が妨害工作できるんです。たとえば、検査中に舌を噛むとか。じゃあ中枢神経、脳ならばどうなのかっていう話になって、まずは脳波。さっきお話した隠匿情報検査と同じパラダイムを用いた質問をして、P300と呼ばれる脳の電位の変動を検出するという方法があります。当事者しか知りえない情報が呈示された時に振幅が増大するのがP300です」

 P300とは、被検査者にとって何か意味のある刺激(事象、event)を与えた後に観察される、いわゆる事象関連電位(event-related potential)の一種だ。300というのは刺激呈示の後300ミリ秒後に振幅が増大することからきている。「隠匿情報検査」(CIT)において裁決質問の時に振幅の増大があれば、まさにその情報に反応していることになる。ポリグラフを使った時にはある程度可能だった妨害工作が、より困難だと言われることがある。

 またP300を見る以外でも、脳波の組み合わせを調べることで記憶の有無を判定するBrain Fingerprinting(脳指紋、脳紋)という方法も開発されているという。

4)fMRI

 医療機関でもおなじみのfMRI(機能的磁気共鳴画像法)で、頭の中でどの部位が活動しているかを見る。

 脳をスキャンするために、大音量の中、横になって装置の中でじっとしていなければならないという欠点があるが、活動する部位を確認することができるという意味では、素人目には信頼性が高いのではないかと考えてしまう。

 村井さん自身が関わった実験があるので、それを説明していただいた。

 セッティングとしては「いわゆる嘘発見器」のところで紹介した「お金を、カバン、ジャケット、バケツなどのどこかに隠してもらって、後で当てる」というものだ。隠匿情報検査の例として挙げたが、村井さんは、その時、実はfMRIを使って脳の活動を見る研究をしていたのだった。

 実際に隠した場所(裁決刺激、1カ所)、ここには隠さないようにと指示した場所(標的刺激、1カ所)、それら以外の場所(標準刺激、4カ所)についてそれぞれ脳の活動を見るのだが、ここでは特に裁決刺激と標準刺激について注目した。なお、「いわゆる嘘発見器」のところでは「裁決質問」という用語だったが、ここでは質問ではなく映像刺激を呈示しているので「裁決刺激」となっている。さて、結果は。

「裁決刺激が呈示された時に、賦活する脳の部位として、島(とう)前部というところに注目しました。実験参加者のAさんは、ジャケットの刺激で右島前部が賦活していて、実際にジャケットに隠したということなので、当たっていました。Bさんは、封筒で左右の島前部が賦活していて、こちらも当たりました。ただCさんの場合、ゴミ箱で右島前部が賦活したので、ゴミ箱に隠したのかと思ったら、実は封筒にも弱い活動が出ていて、封筒が正解でした。ゴミ箱とバケツで混乱してしまったそうで、そのせいでこのような反応が出たんです」

 以上、ざっと様々な検知法を概観してみた。

 ポリグラフ、脳波(P300)、fMRIは、隠匿情報検査という同じ枠組みで実験できるので、たがいに比べやすい。同じ刺激をあたえて、その時に注目している指標が、生理反応か、脳波か、脳の中の賦活している部位か、といった違いだ。

 さて、それぞれの指標は、どの程度の「優秀さ」なのだろうか。村井さんの関わった「カードテスト」を使った研究を紹介する。

「37名の実験参加者をランダムに18名と19名のグループに分けました。前者には5枚のカードから1枚を選んでもらう『カードテスト』を実施し、後者には実施しませんでした。このカードテスト実施群、非実施群をはたして区別できるのか、fMRIで検討したわけです。結果、83.8%の人について、どちらの群か当てることができました。一般に、正答率は、ポリグラフだと8~9割くらいで、P300だともうちょっと高いですね。だいたい機械を使う方法での正答率の上限は9割程度だと考えればよいと思います」

 人間が相手の行動を観察して嘘とマコトを判定するのは、5割を超えるくらいがやっとであるわけだが、言語分析をするとちょっと正答率が上がるし、ポリグラフ、脳波計、fMRIなど機械を注意深く使うとよくて9割くらいまで上がる(必ずしも嘘発見ではないが)。きっと、犯罪捜査などには役立つに違いない。しかし「絶対」ではないことには充分に気をつけなければならない。専門家は分かっているはずだが、アマチュアも、こういった科学的な手法に過剰な期待を抱き、絶対視するのは避けなければならない。なにごとも割合や頻度を考えることが重要だ。

 ぼくたちは、「嘘を見破るのが下手」な"poor lie detector"であり、機械を使うと嘘検知の割合は高くなるけれど、それでも、現実的にはたくさんの誤判定がある。「本当のことを言っている人を嘘つきと判定する」ことは、しばしば取り返しのつかないことにつながる。

 嘘研究の大家の一人、エクマンの金言を村井さんは紹介してくれた。

〈われわれは嘘をつけるし、真実を語りもする。また、欺瞞を見抜き、見落としたりもする。ごまかされたり、真実を知りもするのである。われわれにはいろいろな側面がある。これこそが人間の真の姿なのである〉

「真の姿」を理解して謙虚にやっていくのがよいのだろうと、ここまでの時点で感じることしきりである。

エクマンは『暴かれる嘘』を著し、海外ドラマ「Lie to me 嘘の瞬間」のアドバイザーも務めた嘘研究の大家の一人だ。
エクマンは『暴かれる嘘』を著し、海外ドラマ「Lie to me 嘘の瞬間」のアドバイザーも務めた嘘研究の大家の一人だ。
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つづく

村井潤一郎(むらい じゅんいちろう)
1971年、東京生まれ。文京学院大学人間学部教授。博士(教育学)。東京大学教育学部 教育心理学科卒業。東京大学大学院教育学研究科 総合教育科学専攻 教育心理学コース博士後期課程修了。2001年に文京女子大学(2002年より文京学院大学に名称変更)の専任講師に就任し、助教授、准教授を経て、2009年より現職。主な編著書に『嘘の心理学』(ナカニシヤ出版)『心理学の視点~躍動する心の学問~』(サイエンス社)、主な訳書に『嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実』(福村出版、共訳)などがある。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版公式サイトに掲載した記事を再掲載したものです)

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