「正直者だって信じてもらえないかもってドキドキしたりすることはありますよね。すると、嘘つきも正直者も、同じような内的経験をすることになって、差がなくなってしまう、といったことです。信頼されるための行動統制っていうのは嘘つきに限らない、ということですね。そのことを考慮にいれずに、正直者を嘘つきと判定してしまう誤りを、オセロエラーと呼びます」

「嘘つきも正直者も、同じような内的経験をすることになって、差がなくなってしまう」と村井さん。

 結局、我々は、「嘘発見が苦手」(poor lie detector)であることを謙虚に認めた方がよさそうだ。世にはまことしやかな情報があふれているけれど、正直者を嘘つきと誤判定してしまうリスクは無視できない。日常生活においては人間関係に亀裂が入るだろうし、ましてや、警察の取り調べなどで誤判定されようものなら空恐ろしくて想像もしたくない。さらに、取りこぼし(嘘をついているのに正直者と判定される場合)も多いとなると、なんのために嘘を検知しようとしているのかそもそも分からなくなる。

 それでも、嘘を見破ることには非常に強いニーズがあり、嘘の研究を推進する力にもなってきた。「非言語的行動の観察」があてにならないなら、他の方法があるのではないか、という話になる。

 たとえば、20世紀、ぼくが子どもの頃、「嘘発見器」なるものが流行ったことがある。テレビのバラエティ番組やドラマでも、しきりと取り上げられて、あたかも「科学的に嘘を発見できる」というようなことが語られていた。人間が、「嘘発見が苦手」ならもっと客観的な指標で嘘発見できないかと考えるのは当然の成り行きだ。

「たしかに、嘘を見破る時の一般的なアプローチは、行動の観察だけではありません。まず、語られた言葉そのものを分析する手法がありますし、あとは生理的な反応を見る方法、いわゆる嘘発見器、より正確にはポリグラフですが、あとは、脳波を見たり、さらに脳のどこが活動しているのかfMRI(機能的磁気共鳴画像法)で見るニューロイメージングの方法などがあります」

 ざっくりと言って、「行動の観察」のほかに、「言語分析」「いわゆる嘘発見器(ポリグラフ)」「脳波」「fMRI」の4つが、確立された方法のようだ。

つづく

村井潤一郎(むらい じゅんいちろう)
1971年、東京生まれ。文京学院大学人間学部教授。博士(教育学)。東京大学教育学部 教育心理学科卒業。東京大学大学院教育学研究科 総合教育科学専攻 教育心理学コース博士後期課程修了。2001年に文京女子大学(2002年より文京学院大学に名称変更)の専任講師に就任し、助教授、准教授を経て、2009年より現職。主な編著書に『嘘の心理学』(ナカニシヤ出版)『心理学の視点~躍動する心の学問~』(サイエンス社)、主な訳書に『嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実』(福村出版、共訳)などがある。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版公式サイトに掲載した記事を再掲載したものです)