1981年にザッカーマンという研究者が行ったレビューでは、嘘をついた時に注視(gaze)が増えたという結論を出した研究は5つ、減ったという研究は6つ、変化なしという研究は3つだった。増減の程度も、嘘・本当でそれほど変わるものではなく、トータルで見れば、「視線で嘘を見破るのは難しい」という結論になる。

 ザッカーマンのレビューの結果は、古典的な研究として今なお引用されている。しかし、個々の論文では、「視線で嘘を見破ることができる」と示唆するものもあるわけで、極端な結果を出した1つの研究を抜き出して「ある心理学者の研究によれば──」と紹介すれば、「言っていることは真実だけれど、結果的に誤った信念を相手に伝える」タイプの欺瞞的コミュニケーションの実例になってしまう。なにしろ、我々は、地域をとわず「嘘は視線に出る」という信念を持ちがちなわけだし、信念を補強するような研究は受け入れられやすくもある。

1つの研究だけを抜き出して語る話には注意したほうがいい。

 その後、視線はもちろん、ほかの行動を見ても、嘘発見にはあまり役立ちそうにないことが強く示唆されており、「嘘を見破る」のはますます分が悪くなっている。

 村井さんは、ちょっと見慣れないやり方で描かれた図を見せてくれた。幹葉表示といって、様々な研究の結果を一覧できるようにしたものだ。

幹葉表示。Kはサンプル数。C. F. Bond Jr. and B. M. DePaulo, “Accuracy of deception judgments,” Personality and Social Psychology Review, vol. 10, no. 3, p221, 2006.の図を改変

「2006年にボンドとデパウロという研究者たちが、それまでの嘘研究206編についてのメタ分析をしました。嘘発見の正答率は、おおむね50パーセントを少し超えるくらいです。幹葉表示の見方ですが、パーセント表示された嘘発見の正答率の10の位が幹で、1の位が葉になっています。つまり、幹に5と書いてあるところは正答率が50パーセント台だった研究です。そして、葉っぱですが、1の位が444444……、さらに555555……と続くところがあります。このひとつひとつの数字がひとつの研究を意味しており、54パーセントの研究と55パーセントの研究がとても多いということです。実際に全研究の平均をとると53.98パーセントです。高いものでは73パーセントですし、逆に低い方には31パーセントというものありますが、平均をとるとおおむね50パーセントを少し超えるくらい。人間は嘘発見が苦手で、poor lie detectorだと繰り返し指摘されてきたとおりです」