「これは概念にかかわる話ですけど、心理学辞典に出てくる言い方をすれば、嘘(lie)は、『意図的にだます陳述をさし、単なる不正確な陳述とは異なる』ということになります。『虚偽性』と『意図性』があるものが嘘です。でも、国語辞典を引くとちょっと違って、『意図性』の部分が弱くなるようです。たとえば、道を聞かれて意図せず違う道を教えちゃうのも、嘘と言うことがありますよね」

 確かに、外国からの旅行者に自分で道案内をしておいて、後でそれが間違っていると分かった時、「あ、嘘、教えちゃった!」となる。結局、心理学が関心を持っている「嘘」(虚偽性+意図性)と、日常用語としての「嘘」(虚偽性のみで成立することもある)の違いがあるということだ。心理学は、人の心に関心があるわけで、まさに人の心がかかわる「意図」のある局面に着目しているのかもしれない。

「嘘ってなんだろう」からじっくり教えていただこう。

 さらに、村井さんの業績一覧の中によく登場する「欺瞞」や「欺瞞的コミュニケーション」とは?

「嘘(lie)ではなくて、deceptionという概念があって、その定訳が欺瞞です。さっき説明した嘘って、狭義には言語的なものに限定されているんですが、欺瞞の方は非言語的なものも含んでいて、動物の擬態(mimicry)なども含む広い概念です。人間でいえば、たとえば、うれしくないプレゼントをもらう時に、言葉を発せずにっこりとだけするようなケースが欺瞞ですね。さらに、欺瞞的コミュニケーションという言葉があるんですけど、これは嘘と欺瞞の中間です。真実さえも人をだますのに使われるというような場合。たとえば、職場で『あの人は途中で仕事放り出したんですよ』って誰かが言ったとしますよね。それは実際本当だとします。しかし、その放り出した人は、実は、上司に言われてその場を離れたのだとすると、その情報まで含めないと『ひどいやつだ』っていうイメージになっちゃいますよね。一応、真実を言っているんだけど、誤った印象になってしまう。こんなかんじで、嘘から欺瞞までのグラデーションになっていると思ってください」