「ああ、それはですね。日本国内でもあるんですが、例えば、川の汚染があったとして、BODやCODを見るだけでは、それが養豚場や養鶏場の排水のせいなのか、下水のせいなのか、ほかの何かのせいなのか、分からないんです。でも、最近では分析技術が上がってきたので、細かいところまで測って調べて下水のマーカーを作りましょう、と。水質汚染の原因が下水だとすぐに分かれば、ストレートに対策を立てられるわけです」

 高田さんの研究者としての原点であるアルキルベンゼンもマーカーの一つとして使われるかもしれず、そういう意味でも印象深かった。

 お話を終える段になって、高田さんはこんなふうに付け加えた。

「僕らが研究している汚染物質には、水に溶けるものと溶けないものがあるというふうに話しましたが、実は共通点があるので強調させてください。つまり『残留性』です。プラスチックの関連で扱っているのは、残留性有機汚染物質ですし、水溶性汚染物質は人工甘味料、抗生物質など、いずれも残留性が高い物質です。僕の研究は、環境に出てしまうといつまでも残る残留性汚染物質についてのものなんです」

 そして、背景にある思いをこんなふうに吐露してくれた。

「アメリカの先住民の言葉に、我々人は子孫から大地を借りて生きている、というものがあります。まさに僕ら人類は子孫から地球という惑星を借りて生きている存在です。人から物を借りたときに、汚れているけど毒ではないからいいでしょと言って返す人はいないと思います。毒かどうか分からないけど、とにかく綺麗な状態で返すのが人としてのやり方で、これが予防原則だと思っています。プラスチックも含め我々が扱っている化学物質が毒かどうかというのはまだ完全には分かっていませんが、地球という惑星を将来の人類から借りているわけなので、残留性のあるものを残したままこの惑星を返すわけにはいきません。だからこそ、地球上に残留性の高い人工物を残さないようにしたい。そう願っているんです」

 至言である。

 取材を終えて、まずは自分自身のレジ袋、ペットボトルの消費の削減をさっそく始めるだけのインパクトがあった。そこから先は、公的な施策なしでは無理なので、国、自治体での議論と行動をこの場で訴えたい。

「地球上に残留性の高い人工物を残さないようにしたい。そう願っているんです」

おわり

(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)

高田秀重(たかだ ひでしげ)
1959年、東京都生まれ。東京農工大学農学部環境資源科学科教授。理学博士。1982年、東京都立大学(現首都大学東京)理学部化学科を卒業。1986年、同大学院理学研究科化学専攻博士課程中退し、東京農工大学農学部環境保護学科助手に就任。97年、同助教授。2007年より現職。日本水環境学会学術賞、日本環境化学会学術賞、日本海洋学会岡田賞など受賞多数。世界各地の海岸で拾ったマイクロプラスチックのモニタリングを行う市民科学的活動「インターナショナル・ペレットウォッチ」を主宰。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

本誌2018年6月号でも特集「海に流れ出るプラスチック」「プラスチック4つの視点」を掲載しています。また、使い捨てプラスチックの削減を呼びかけるナショジオの「地球かプラスチックか(Planet or Plastic?)」長期キャンペーン開始の声明文も公開しています。