ここでふと思ったのだが、こういうふうに自然界にないものが突然現れ、ピークの時期もはっきりしている場合、いわゆる「示準化石」のように使えるのではないだろうか。東京湾で1センチ1年というふうに分かるのは、そもそもなにか目印となるようなものがないといけないわけだし、きっとそういうことなのだろう、とも。

「あ、もちろん、そうですよ。化学化石と私たちは呼んでいるんですけど、まさに化学化石を使って年代を特定してやっています。PCBがちょっと出始めたところを1954年というふうに決定できます」

 化学化石という言葉は、まさに言い得て妙である。今は海底の泥の状態だが、安定した環境でどんどん堆積していけば、いずれ圧縮されて泥岩になる。もしも、将来、それが地層として陸上に出てくるようなことがあれば、その時代の地質学者は、泥岩層の中からマイクロプラスチックの微化石を見つけることになるだろう。

 なお、これと関連して、地質学の専門家の間でも、「1950年代以降」という時代について、これまでとは違う受け止めをしようという動きがあることを指摘しておく。従来の考え方では、最終氷期が終わった約1万年前から現在までを「第四紀完新世」としてきた。しかし、1950年代以降、人間の活動の影響がきわめて強くなったことから、「人新世」を新たに設けるべきではないかという議論が力を得ている。その際、マイクロプラスチックや、それに含まれるPCBは、大気中核実験の痕跡などとあわせて、まさに人新世に特徴的な「化石」になる。

荒川の河口部のプラスチックごみ。(写真提供:高田秀重)

つづく

(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)

高田秀重(たかだ ひでしげ)
1959年、東京都生まれ。東京農工大学農学部環境資源科学科教授。理学博士。1982年、東京都立大学(現首都大学東京)理学部化学科を卒業。1986年、同大学院理学研究科化学専攻博士課程中退し、東京農工大学農学部環境保護学科助手に就任。97年、同助教授。2007年より現職。日本水環境学会学術賞、日本環境化学会学術賞、日本海洋学会岡田賞など受賞多数。世界各地の海岸で拾ったマイクロプラスチックのモニタリングを行う市民科学的活動「インターナショナル・ペレットウォッチ」を主宰。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。