今度は別の部屋に移り、泥の中に入っている化学物質を抽出する。有機溶媒のアセトンに溶け込ませた試料を「ガスクロマトグラフ/質量選択検出器」という分析機械で、まず個々の化学物質ごとに分離し(ガスクロマトグラフ)、それぞれがどういう物質なのか判別する(質量選択検出器)。たくさんの試料を同時進行、かつオートで分析できるすぐれものだ。

ガスクロマトグラフ/質量選択検出器。

 なお、ここで、「泥の中の化学物質」を測定していることに違和感を持った人もいるかもしれない。堆積物全体の傾向を見るには、泥全体の測定は間違いなく必要だが、泥の中でも特にマイクロプラスチックにどれだけ吸着しているかが、この話の焦点なのだから。

「海底の堆積物の中に入っているマイクロプラスチックは、とても細かくて、取り出すのが難しいんです。海水から回収したマイクロプラスチックや、海岸の砂の中のレジンペレットなら、ピンセットでひとつひとつ取り出して100粒ほど集めて、まとめて化学物質を測ることができます。でも、海底の泥はそれができない。取り出すには、化学的な前処理が必要になって、そうすると付着していた化学物質も変化してしまいます。また、海底の泥の中には、プランクトンの糞や死骸などからなる粒子もあって、そちらにも化学物質が吸着するので、今のところは一緒に測っているんです。それでも、直接、マイクロプラスチックだけを測定したいので、今後5年くらいのプロジェクトの中で、海底の泥の中の小さなマイクロプラスチックを取り出す方法を開発することになっています」

化学物質を抽出するための機器。

 さて、こういった分析は、とてもシステマティックで、書いてしまうと、あたかも1日ですべてできるような印象を与えることがある。でも、実際には前処理に時間がかかったり、ひとつひとつの作業が実はとても大変だったりするため、かなりの時間が費やされる。海底の泥の分析の場合、1つのサンプルの分析を開始してから、最終的に汚染物質の種類や量が確定できるまで1週間くらいはゆうにかかるそうだ。ましてや、堆積コアをまるまる見るとなると、2人で作業しても1年くらいの大仕事になる。

 そして、そのような過程を経て、やっと東京湾の堆積コアに隠された情報を引き出す準備が整うのだ。

 コアから読み解けることとして、まずはプラスチック汚染が時代とともにどう変わってきたか。