「現場で感じた匂い、見えていたもの、聞こえていたものが大事です」

「『現場百遍』というのは、もともと新聞記者だった父の言葉だったんです。新聞記者は現場に何度も足を運び、資料の背景にあるものを見出そうとしますよね。環境汚染の化学もそれと似ていて、現場で感じた匂い、見えていたもの、聞こえていたものが大事です。のちのち試料を分析して汚染物質を見つけた時などに、その原因をさぐる重要なヒントになりますから」

 さて、現場の様子を胸に刻みつつ、無事にサンプルを入手したら、そこから先は府中市にある東京農工大に戻り、白衣の化学者としての作業に入る。東京湾の堆積コアの場合、大きく分けて2段階の分析があると考えてよい。

「まず泥の中に含まれているマイクロプラスチックを見分けなければなりません。1ミリ以下のものですので、拡大鏡で見れば分かるレベルです。東京湾の場合、多い場合ですと、泥10gにつき、40個程度のプラスチック片が入っています。つまり、一握りの泥に、数十個です。自分の目で見て、これはプラスチックかもしれないというものを判別するんです。その後で分析機械にかけて、どういうプラスチックか調べます」

 サンプルの泥から自動的にプラスチック片を分離できるような機械があるのかと思っていたのだが、最初の段階では人間の目が頼りだそうだ。その上で本当にプラスチックかどうか、だとしたらどのような種類かを判別する分析機械にかける。赤外顕微鏡と呼ばれるもので、ごく小さな物であっても、そこに赤外線をあてて反射を見ることで、どんな物質なのか判別できる。物質によって、光のどの波長を吸収するのかパターンが決まっていることを利用する。

 これで、混じり込んでいたプラスチック片の数や種類が分かった。

赤外顕微鏡。右側のモニター画面で試料を確認する。