21世紀に入り、生産量が激増しているプラスチック。便利さの一方で、大量のプラスチックが海に流出し続け、近年は5mm以下の「マイクロプラスチック」にも大きな注目が集まっている。そこで、マイクロプラスチック汚染について早くから研究を続けてきた高田秀重先生の研究室に行ってみた!
(文=川端裕人、写真=内海裕之)
マイクロプラスチック問題をめぐる大きな流れを見てきた。
高田さんは90年代からこの流れの中で研究をし続けてきたわけだが、具体的にその研究はどんなふうに行われるのだろうか。大学にお邪魔しているわけだから、その点についても見せていただかない手はない。

まず、よくある「化学者のイメージ」とはどんなものだろう。ぼくの頭にぱっと浮かぶのは「白衣に試験管」や「白衣にフラスコ」といった姿だ。これはステレオタイプな「サイエンティスト像」そのものかもしれない。ネットで利用できる写真素材提供サービスなどを見ていても、「化学者」のカテゴリーにこういった写真やイラストがふんだんに用意されている。
ところが、高田さんの研究は、そんなステレオタイプとは別のところから始まる。
始まりは、常にフィールド。「現場百遍」を合言葉に、みずから現場でサンプルを取得するのが流儀なのである。日本だけではなく、ベトナム、ラオス、カンボジア、マレーシア、インド、ガーナ、ケニア、南アフリカ、モザンビークなど、世界中のあちこちに自ら足を運び、サンプルを取得してくる。その行動範囲は、ぼくが密かに「インディ・ジョーンズ系」と呼ぶタイプの研究者のものだ。
ここでは、最も身近なフィールドの一つである東京湾の海底の泥を採取するところから始める。

「2年に1回ぐらいですが、東京海洋大学の船で東京湾の底の泥、堆積物コアを採取しています。内径11センチのパイプに、1枚10数キロのおもりを2つつけて、船の上からゆっくりとワイヤーを使って海の底に落とすと、パイプが海底に突き刺さります。パイプには逆流防止の弁がついているので、中に入った堆積物を引き上げることができます。東京湾は、場所によりますが、大体平均で1年に1センチずつぐらい泥が積もっていきます。ですので、1メーターとれたとすると、まあ100年分ぐらい。それを船の上でスライスするんです。下から棒で突き上げて、上に出てきたものを2、3センチごとに切り分けていきます」
揺れる船上で、これはかなり熟練とチームワークが必要な作業だ。1メートルで100年、1センチで1年。堆積コアに詰まった情報をダメにしないように、6人がかりくらいで慎重に作業を進める。
その時、高田さんは、採取した現場の様子を自分の目や鼻、耳などで感じて頭に刻み込んでおくことを推奨する。よそからサンプルをもらって分析をするのでなく、自分で取りに行く、というのはそういうことだ。
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