チャールズ・モア著『プラスチックスープの海』
チャールズ・モア著『プラスチックスープの海』

 とても強烈な試算だ。動物プランクトンよりも、海に浮かんでいるプラスチックの方が多い(重量ベース)というのである。このように数字が出てくるとにわかに問題の深刻さが分かる。ちょっと先走って書いておくと、21世紀になってからの知見では、このままの状態が続くと海のプラスチックの量は、2050年までに魚の量を超える(重量ベース)との試算が、2016年の世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)で示された。2015年には、世界中で年間4億700万トンものプラスチックが生産されている。人類はせっせと化石燃料を掘り起こしては、その一部を海に流し、それがつもりつもって、今や、プランクトンや魚などのバイオマスに匹敵する量に達しているのである。

 つくづくとんでもないことだ。

 さて、1990年代後半は、もうひとつ、重大な環境汚染問題が取り沙汰された。

「いわゆる環境ホルモンについても問題提起されたのはこの時期です。日本語にも翻訳された『奪われし未来』が最初に刊行されたのは1996年。プラスチックというと、それ自体無害なように思えるんですけど、実は添加剤としていろんな化学物質が入っています。その中には、環境ホルモンとして働くものもあります。それだけではなくて、環境中の有害物質を吸着します。僕もその頃、ある人に勧められて、海岸に落ちているプラスチックに何が含まれるか調べてみました。すると、環境ホルモンの1種のノニルフェノールが、もともとはないはずなのに、すごい濃度で出てきて驚きました。それで僕自身もこのあたりから、プラスチックのことを追うようになりました」

 ノニルフェノールは代表的な環境ホルモンで、室内実験ではヒトの乳がん細胞に添加すると乳がん細胞が異常増殖することが確認されている。一方、野生生物では、イギリスの河川の淡水魚で、雌雄同体の生殖異常を引き起こしていることが判明している。このような結果を受けて、日本国内の河川でもノニルフェノールの環境基準が作られているほどだ。