環境ホルモンについては、一時、「男性が女性化する」「子どもができなくなる」「ガンになる」などと大騒ぎになって、その後、しゅっと萎んでしまった。しかし、実験室レベルでの毒性はその後も研究され続けているという。一方、PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、公害病であるカネミ油症の原因になったり、発がん性、催奇性があることで知られている。1960年代によく使われ、健康被害がはっきりしたため、70年代の初頭には使用が禁止された。その後、40年近くたっても、ひとたび放出されたものが環境中に微量ながら残っており、それをマイクロプラスチックなどが吸着することで濃度を高めてしまうというのは衝撃的だ。また、PCBにかぎらず、油脂に溶けやすいタイプの有毒物質が軒並みプラスチックに吸着してしまうというのである。

 さて、かなり深刻に思えてきたのではないだろうか。

「ただ、マイクロプラスチックが有害であるとはっきり分かったわけではありません。国際的に進められている対策は、予防原則的な立場からのものです」

 高田さんは慎重に留保をつけて、そう言った。しかし、実際に、多くの国々や自治体で、様々な施策が取られるようになってきているのはまぎれもない事実なのである。

「2014年には、アメリカのサンフランシスコ市で、ペットボトルでの飲料水の販売が禁止されました。フランスでは、プラスチック製の使い捨て容器や食器を禁止する法律ができて、2020年から施行されます。プラスチックゴミについて、いわゆる3R、リデュース(減らす)、リユース(繰り返し使う)、リサイクル(材料として再活用する)の中でも、まずリデュースしようというのが大きな流れです」

 高田さんは、2017年6月にニューヨークで開かれた国連海洋会議に出席し、その中の海洋ごみ、プラスチック及びマイクロプラスチックをテーマにした分科会で基調講演を任された。その時に強調したのが、「3Rの中で特に削減が第一」という点だったそうだ。会場の研究者も政府関係者も、その点においては異論はなく、コンセンサスと言ってよいものだったという。またその場で、レジ袋などの使い捨てプラスチックを規制する国際条約案が検討されたりもした。

 このようなわけで、今、マイクロプラスチックの問題が、国際的に大いにクローズアップされて、時代が動こうとしている。その中心的な動きの中には、高田さんのように日本の研究者もいる。しかし、正直、日本でこの言葉を通常メディアでよく見かけるようになったのは、せいぜいここ数年のことではないだろうか。

 長年、問題を追いかけてきた高田さんのガイドで、まずは今世界で起きていることを理解するところから始めなければならない。

マイクロプラスチック問題の第一人者である高田秀重さんに詳しく解説していただこう。

つづく

(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)

高田秀重(たかだ ひでしげ)
1959年、東京都生まれ。東京農工大学農学部環境資源科学科教授。理学博士。1982年、東京都立大学(現首都大学東京)理学部化学科を卒業。1986年、同大学院理学研究科化学専攻博士課程を中退し、東京農工大学農学部環境保護学科助手に就任。97年、同助教授。2007年より現職。日本水環境学会学術賞、日本環境化学会学術賞、日本海洋学会岡田賞など受賞多数。世界各地の海岸で拾ったマイクロプラスチックのモニタリングを行う市民科学的活動「インターナショナル・ペレットウォッチ」を主宰。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。