「役者が亡くなったときに出した浮世絵です。面白いのは、基本的に死装束とか、死後の姿を想像して描くんですね。やっぱり死後もこうあって欲しいみたいな、さっきの供養絵額と同じような世界があることです。葬儀写真集にかわると、この文化は下火になる。かろうじて昭和初期ぐらいまで続くんですけど。最後は昭和10年の初代・中村鴈治郎です。遺影になると、死後の存在とは言いながらも、あくまでも生前の姿なので、そのあたりで、死者に対するベクトルの向きが大きく変わったと」

 石原裕次郎がなくなっても、死後の世界の裕次郎を想像した絵が描かれ、流通することはなかった。やはり、今から考えると、なにか異質なものがここにはある。

 なお、この手のもので、一番の人口に膾炙したのは、江戸時代の八代目・市川團十郎だ。

 人気も絶大だったし、亡くなり方としてもセンセーショナルだった。

「八代目團十郎は自殺しているので、書き置きをしてる図とかがあります。あと、絵を前に女性が嘆き悲しんで、雌猫まで泣いている。尼さんも泣いている。閻魔と首っ引きをして、女たちが応援してる絵とか。女の人が爪をなめたりとか、股をまさぐってるとかそういうのもあります」

猿白院成清日田信士こと八代目市川団十郞死絵  国立歴史民俗博物館蔵
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猿白院成清日田信士こと八代目市川団十郞死絵  国立歴史民俗博物館蔵
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 そして、やっと現代にたどり着いた。

 簡素でモダンな印象のラックに、葬儀に関連する様々な物や写真が展示されている。

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「今のことについては、あえて簡単に展示を変えられるように作っています」と山田さん。

 ラックの中に入れる形式だから、新しい動きが出てきた時に簡単に変えられるようになっているわけだ。

トートバッグで隠す

 現時点の展示の中では、樹木葬・散骨・手元供養といった、最近、よく聞く「送り方」を示すものが並べてあった。そして、特に目についたのは、なんと、トートバッグ。

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「火葬場から遺骨を持って帰るときに、人に見られると不快感を与えるかもしれない、ということです。この感覚は、そんな古いもんじゃないんですよ。80年代ぐらいだと、電車とかで遺骨を抱いてる人は普通にいました。風呂敷にはくるんでましたけど。今はむしろ自己規制で、骨壷を持っていると分かる状態で歩いたら、まわりは嫌なんじゃないか、と。それで、こういうトートバッグの需要が出てくる。つまり、死者を隠す、自分以外の者はもう嫌なんだっていう感覚です。これはやっぱり社会的に『死者がいる』という感覚が、急速に狭まって、家族以外はもう嫌だというのとつながっていってるという点で、あえて展示したんですね」

 再び、死への感覚についての、現代的な課題が出てきた。

 死が、葬儀が、家族化、個人化、孤立化する21世紀、山田さんが関わってきた民俗学的な知見をどれだけ活かしていけるだろうか。知らなかったことをさまざまに可視化していただきつつ、重たい課題も同時に可視化され、ぼくたちに投げかけられたのだと思う。

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おわり

国立歴史民俗博物館 総合展示室

開館時間:9時半~17時(10-2月は16時半閉館)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜(祝日の場合は開館し、翌平日閉館)、年末年始
住所:千葉県佐倉市城内町117
http://www.rekihaku.ac.jp
山田慎也(やまだ しんや)

1968年、千葉県生まれ。国立歴史民俗博物館准教授および総合研究大学院大学准教授を併任。社会学博士。専攻は民俗学。葬送儀礼の近代化と死生観の変容を主な研究テーマとする。1992年、慶応義塾大法学部法律学科卒業。1997年、慶応義塾大大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学後、国立民族学博物館COE研究員、国立歴史民俗博物館民俗研究部助手を経て、平成19年8月に現職となる。単著に『現代日本の死と葬儀 葬祭業の展開と死生観の変容』(東京大学出版会)、共編著に『変容する死の文化 現代東アジアの葬送と墓制』(東京大学出版会)、『冠婚葬祭の歴史』(水曜社)、『近代化のなかの誕生と死』(岩田書院)などがある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。