以上、川上さんによる、鳥の「すごさ」についての導入部だ。

 自ら作った骨の標本を見ながら教えてもらったことが多く、なにか解剖学寄りの話になった。同時に、川上さんは常に進化についての意識が強くあり、鳥の進化をめぐる進化生物学的な話を聞いたようにも感じた。

 その意識のまま標本室から引き上げて、川上さんの執務室を訪れると、ちょっと不意を突かれた。

 天井はコンクリート打ちっぱなしで、そのままでは殺風景だ。川上さんは、パーティションで区切られた自分のスペースの上に、スチールの格子を取り付けて、そこから様々なものを吊り下げていた。

 カラビナやエイト環といったクライミング用具。トレッキングシューズやヘルメット。そして、防水防塵タイプのコンパクトデジタルカメラなど。これらは、フィールドワーカー、それも、かなり厳しい調査地を頻繁に訪れる人の装備だ。

まるで探険家の部屋のような執務室。
まるで探険家の部屋のような執務室。

「僕は小笠原での海鳥の研究が多いんですけど、海鳥っていうのは、食べ物は海で食べるのに、巣をつくって繁殖するのは陸地ですよね。つまり、海から陸地に、窒素だとかリンだとか持ってくるわけです。他の場所で体に植物の種子を付着させて持ってくることもあります。ですので、海鳥も島の森林生態系の一部です。小笠原は、今、世界自然遺産に登録されていて、その保全管理の責任があるので、生態系の調査が必要なんです。これは、僕が、この森林総合研究所で、なぜこういった研究をやるのかという理由でもありますね」

 ここで川上さんは、フィールドの生態学者としての顔を見せた。さっき骨を見ながら話を聞いた時とはかなり印象が違う研究領域だ。

 進化という時間的スケールの大きな話と、生態系という一個体だけではすまない空間スケールの大きな話が、ここで合流していることに気づき、わくわくする。

 鳥をめぐる「すごい」物語が、これから明らかになる予感がしてならない。

つづく

(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)

川上和人(かわかみ かずと)
1973年、大阪府生まれ。鳥類学者。農学博士。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 鳥獣生態研究室 主任研究員。1996年、東京大学農学部林学科卒業。1999年に同大学農学生命科学研究科を中退し、森林総合研究所に入所。2007年から現職。『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)、『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』『そもそも島に進化あり』(技術評論社)『外来鳥ハンドブック』(文一総合出版)『美しい鳥 ヘンテコな鳥』(笠倉出版社)などの著書のほか、図鑑も多数監修している。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
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