鳥の研究に魅せられて、無人島で過酷な調査を行い、鳥の進化の妙に思いをはせ、ベストセラーをものす。そんなマルチな活躍を続ける注目の鳥類学者、川上和人さんの研究室に行ってみた!
(文=川端裕人、写真=内海裕之)
茨城県つくば市にある国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所は、その名の通り、森林に関する研究所だが、なぜか鳥獣生態研究室という部署がある。それどころか、立派な鳥の標本収蔵庫まで備えている。国立科学博物館や山階鳥類研究所など、標本を多く持っていてしかるべき機関には及ばないものの、それでも国内では五指に入る規模だというから驚かされる。
ベストセラーになった『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』の著者で、この収蔵庫の「主」でもある川上和人主任研究員に案内してもらった。

きっかけは、川上さんが「すごい」と思う鳥についての話題だ。川上さんは、前出の書籍でも「鳥が特別に好きなわけじゃない」と公言している。にもかかわらず、鳥の研究の話を始めると、最初は飄々とした語り口の中にやがて熱がこもり、高温の青い炎を周囲に撒き散らすがごとき様相に至る。
「鳥って、まず、飛ぶってことがすごいなと思います。飛ぶのは、とんでもなくエネルギーを使うことなので、飛ばないですめば飛ばないほうが絶対よいはずなのに、恐竜の中のとあるグループが、飛ぶように進化した。昆虫のように、小さくなれば小さくなるほど、体重と表面積の関係で飛びやすくなるのに、鳥が大きな生物なのに飛ぶようになったっていうのは、もうすごいとしか言いようがないんです。まだはっきりとは明らかになっていないけれど、ものすごく大きな理由があったと思います」
やや早口の語りの中で、「鳥、すごい」と連呼している。

川上さんは、鳥の本質的な部分を「飛ぶように進化した」ことだと捉えている節があり、そのことに魅了されているようにも感じられた。つまり、「特別に好きじゃない」というのはあくまでもポーズで、実は相当、好きなのでは、という疑惑が湧いてくる。
その点を突っ込んでみると、「好きというよりも、すごいと思う鳥はいっぱいいますよ」とあっさりと認めた。実は、その「すごい」と「好き」の間には微妙な違いがあるはずなのだが、とにかく魅了されていることには違いない。ここではまず川上さんが選定する「すごい鳥」について耳を傾けよう。
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