「よい質問です。我々の研究では、視覚刺激では短くはならないです。実験的にも、シミュレーションとしても」

 でも、ここで、四本さんがにっこり、謎の微笑みを浮かべた。良い質問というのには、なにか別の要素があるようだ。

「視覚では、いわゆるアルファ波が、引き込みに一番重要な帯域だろうっていうのがわかったわけです。じゃあ、同じ周波数を使って聴覚でやってみようと。今度は11ヘルツのチカチカではなく、11ヘルツのトゥトゥトゥトゥっていう音を出したらどうなるかと。で、それをやってみると、今度は時間が短く感じられる。同じ周波数を使って、視覚刺激だったら長く見えて、でも聴覚刺激だったら短く聞こえるっていう、逆転するところを見つけ出したんですね。もう本当に私、この研究大好きで、すっごくおもしろいと思うんですけど(笑)」

ものすごい実用

 実に興味深い! 四本さんの見立てでは、視覚皮質と聴覚皮質では、時計の役割をするペースメーカーの周波数帯が違うのではないか、ということだ。

 思い出そう。脳には時間皮質という特定の部位があるわけではなく、様々な部分がかかわって時間を知覚していると想定されていた。だから、視覚と聴覚では、別のやり方で時間を知覚した上で調整していてもまったく不思議ではない。

 なお、聴覚と視覚に同時に刺激が与えられて、それぞれの効果がバッティングした場合はどうなるか。四本さんの研究では、聴覚の方が勝つことが多いそうだ。一般的には、空間的な情報は視覚に重みづけがあり、時間的な情報は聴覚のほうを信じる傾向があるそうで、それと整合的な結論だ。

 また、ぼくたちの感覚とも整合するかもしれない。日常生活で、空間的な情報に対する判断は視覚に依存することが多い。また、時間的な情報に対する判断を、聴覚に依存することが多いような気がする。後者はあくまで「気がする」レベルだが、例えば、目を閉じて周囲の音に聞き入ったり、あるいは音楽を聞く時にも、なにか時間の感覚が鋭くなるような実感がある。

 四本さんの研究はあくまで基礎研究なのだけれど、ぼくはつい聞いてみた。これ、なにかの実用にならないんですか、と。

 四本さんは、またもにっこり笑った。

「すっごく楽しいときは時間があっという間に過ぎるとか、つまんない会議は、延々と終わらないみたいに感じるじゃないですか。それを変えられないかなと思って」

 いきなりこれは、ものすごい実用だ! それも非常に夢がある!(と思う)。

 もうこの瞬間、四本さんの楽しそうな顔といったら!