四本さんの見立ては、チカチカ点滅する光を提示されると、脳内で時間をカウントするペースメーカーが、光の点滅に引き込まれるのかもしれない、ということだ。そして、そうやって、ペースメーカーの周期が変われば、例えば、実際に3秒たつ前に「3秒たった!」とシグナルが出て、被験者は点滅の時間を3秒よりも長く感じることになる。

「これ2016年に発表した行動実験の結果と、さらに昨日ちょうど書き上げたばかりの論文なんですけど──」

 そう言いながら、発表ほやほやの論文と発表前の論文と図表を並べて見せてくれた。

3秒ニューロン

「まず脳波で実験をやってるんです。光がチカチカする刺激とチカチカしない刺激のどっちが長く感じたみたいなのをいろいろやって、チカチカさせる刺激の周波数を、例えば11ヘルツ(1秒間に11回)だったり、15ヘルツだったり、30ヘルツだったり、いろいろ変えてあげると、時間を長く感じたり、あんまり長く感じないものが出てきたりします。11ヘルツでは長く感じるんですが、その時に、実際に11ヘルツあたりにやっぱり脳波のピークがくるので、ちゃんと引き込みが起きてますよといったことを検証しています」

 ここで、はたと気づくのは、ここまでペースメーカーと呼んできたものは一体何なのか、ということ。

 それは、つまり脳波、なのか。

脳に視覚皮質や聴覚皮質はあっても、時間皮質は存在しない。

 脳波というのは、脳の活動によって生じる微小な電位変化を捉えているものだから、そのペースメーカーなるものが刻むリズムが脳波として観察されても不思議ではない。あるいは、とりたててペースメーカーのために発しているわけではない脳波の周期を、時間のカウントに使っているということもありそうだ。

 ここで、注目すべきなのは、11ヘルツという周波数である。

「これ、いわゆるアルファ波の周波数です。9ヘルツから13ヘルツくらい。視覚皮質がある脳の後ろの部分って、他の脳科学の知見でもアルファ波が一番出やすい部分です。それが、ペースメーカーになっている可能性があるんですね。あくまで数理モデルなんですが、3秒を検出するニューロンがあると仮定して、例えば9ヘルツから13ヘルツぐらいの間でリズムを刻んでいたものが、たとえば11ヘルツや12ヘルツにぎゅっと引き込まれたときに、このニューロンは、3秒よりもちょっと前に3秒たったよっていう信号を出してしまう。なので、実際の3秒がやや長く知覚されるみたいなことが起きるんです」

 ここで、注意すべきなのは、視覚皮質のペースメーカーが、ある特定の周波数でだけ刻まれているというわけでもなくて、9~12ヘルツくらいの間の周波数のものが重ね合わさって同時に存在している中で、だいたい3秒を検知して信号を出すニューロン、というのを想定しているということだ。そこに11ヘルツだの12ヘルツだので点滅する視覚刺激を与えて、引き込みが起きると、その「3秒ニューロン」が予定よりもはやく3秒を検知してしまうというのである。あくまで数理モデルだが、それが、四本さんたちのこれまでの実験ととてもよく合っている。

 そこでふと思う。

 今まで、時間を長く感じる方のことを話題にしてきたけれど、逆に短く感じることってないのだろうか。たとえば、想定上の「3秒ニューロン」が、実際の時間よりも長いことかかってやっと「3秒経過!」と信号を出すとか。