調べてみたところ、「元締め」が特定できた。件の研究科の中でも認知神経科学・実験心理学を主な領域とする、四本研究室だ。研究室の主、四本裕子(よつもとゆうこ)准教授のもと、「時間知覚」「多感覚統合」「脳の性差」などをテーマにして研究を進めているとか。

錯覚は入口

東京大学大学院総合文化研究科准教授の四本裕子さん。

 あれ、錯視は? と思いつつも、ほかのテーマにも非常に興味惹かれるものがある。イリュージョンとして、高いエンタテインメント性を持つ「錯視」から、アカデミックな薫りがする「時間知覚」「多感覚統合」「脳の性差」というのはどういう道筋でつながっているのだろう。研究室にお邪魔して、お話を伺ってきた。

 目黒区にある東大駒場キャンパスの執務室で、四本さんは、案の定、まず釘を刺した。

「実は、私の専門は、錯視というわけではないんです。視覚の研究者としてスタートしていますけれど、今は、視覚だけじゃなくて、見たり、聞いたり、考えたり、しているときの脳の活動を測定して、人間の内的な活動のメカニズムを探るというのがテーマです。錯視はあくまで入口みたいなものですね」

 なるほど、「錯視は入口」なのである。

 しかし、それにしても、日本錯視コンテストで、ほぼ毎年、複数の入賞作品がこの研究室から出ているのはなぜなのか。

「実は、うちの学生には、錯視コンテストに作品を出すのを義務付けているんです。9月が締め切りなので、夏休みの間に必ず1人最低1個は新しい錯視を見つけてきなさいって。すると学生たちは、寝てもさめてもじゃないですけど、世の中の視覚情報に思いをはせることになります。なにか見つけるまで、駅の壁でも廊下の天井でも見ながら、不思議なものがないか探し続けて。ヒントが見つかったら、自分でちょっとプログラミングしてみて、コンピュータの画面の上で動かしてみたり……」