「まず感度が違います。桿体はすごく高感度で、薄暗いところでも見えるんです。薄明視といいます。光子1個でも反応する感度です。究極の高感度光センサーです」

 光子1個! これは驚くべきことだ。

 ニュートリノ振動を見出した「スーパーカミオカンデ」も、宇宙から来たニュートリノが時々発生させる光子を捉えて観測していた。その際のセンサーは直径50センチもある真空管のようなものだった。今では指先に乗る小さな半導体センサーが開発されていると聞いているけれど、我々の体にはもっと小型で同じくらいの感度のセンサーがとっくに搭載されていたわけだ。

 とにかく、桿体は暗がりでも機能する超感度。それが大事な点。

「一方、錐体のほうはそこまで感度はよくなくて、ある程度明るいところで働きます。ですので、桿体と錐体があることで、夜の星明かりの明るさから真昼のところまで、ものすごく広いレンジをカバーできるわけです」

 光子1個レベルの暗がりから光降り注ぐ真昼まで! そう書くとやはりすごい。

 しかし、ここでぼくたちが関心があるのは明暗ではなく、色、だ。それについては、どうなのだろう。

「色覚に関係するのは、明るいところで働く錐体の方です。たとえば、人間について言えば、赤、緑、青に反応する3種類の錐体があって、それらを使って色を識別しているんです」

 桿体は高感度で、薄暗いところでうまく働く(薄明視)。

 錐体は感度はそれほどではないが、明るいところで働き(桿体とともに広いダイナミックレンジを実現)、色を識別する(色覚)。

光センサーの分子

 こういう理解でいいだろうか。

 特筆すべきは、このような働きの違いがありつつも、桿体でも錐体でも同じ構造のタンパク質を視物質として持っていることだ。

 混乱するかもしれないので注釈すると、視細胞というと桿体や錐体のことをさす。大きく見れば、これが光センサーだといえる。しかし、もっとミクロに見ると、視細胞の中に、特に光に反応する視物質というものがあって、その部分で光の刺激が電気信号に変換されている。さっき、河村さんが言及した、入り組んだ膜の上にぎっしりとある「光センサーの分子」というのが、視物質ということだ。